第11話
「拓海、誕生日おめでとう。はい、プレゼントよ」
「ありがとうございます、
三番目の客の席に着いた拓海は、ある企業の社長である
新人だった頃より目にかけてもらっている大事な客の一人ではあるものの、感情の起伏の波が大きく、ほんのちょっと扱いを間違えると子供のように駄々をこねるわ、後輩ホストにひどい絡み方をするわで少々面倒なところがある。
実際、今も拓海が席に着くまで、この女社長は笙を隣にはべらせて、無茶な飲ませ方をさせていた。だいぶ慣れてきたとはいえ、何度も一気飲みをさせられていた笙の顔色はだいぶ悪くなっていた。
「美也子様、今日は俺の誕生日なんです。こんなガキに構わないで、ちゃんと俺を見てて下さいよ」
すかさず女社長の横に滑り込むように座り、その耳元に顔を埋める。そして唇をわずかに尖らせてリップ音を聞かせてやれば、女社長の注意はあっという間に笙から離れていった。
「あら、やだ。拓海ったら妬かないのよ」
「妬いてません、拗ねてるだけです」
「同じ事じゃない。もう、かわいいんだから」
そんなかわいい拓海には、もっと喜ばせてあげなくちゃねと、女社長はパンパンと両手を打つ。すかさず別のホストが駆け寄って膝を折ると、彼女はひどく高飛車な視線を投げかけながら言った。
「ドンペリゴールドを五本ちょうだい。シャンパンタワーしちゃいましょ」
女社長のその声に、フロアの中が一瞬騒然となった。その場にいる全員の視線が一気に集まり、他の女達の悔しそうな呻き声が聞こえてくる。
だが、それもほんの一瞬の間の事で、すごすごと奥へと引っ込んでいく笙に代わって、賢哉がマイクを握った。
「おおっとぉ! ここで美也子様から拓海にゴールドタワーのプレゼントだぁ! 素敵な時間を、ありがとうございまぁす!」
「ありがとうございまぁす!!」
賢哉の声に続くようにして、全てのホスト達が女社長に向かって一糸乱れぬ最敬礼を見せる。
拓海も「ありがとうございます」と頭を下げると、女社長はひどくご機嫌な様子で「私とあなたの仲じゃない。後でもっと高いお酒入れるわ、だからお店が終わったら……ね?」とじっとりと見つめてきた。
「光栄です」
そう答えるものの、拓海は心の中で深いため息をついていた。
新人の頃からあれやこれやとかわしてきたが、さすがにもう無理か? 枕営業なんて二流の奴がやる事だろうが……。
そう思う拓海の視界の端では、シャンパンタワーの準備が着々と進められていた。
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