第7話

四月三日の昼過ぎ。拓海は一ヵ月ぶりに、養護施設『太陽の里』を訪れた。すると、土曜日である上に、事前に連絡を入れていた事もあって、入り口をくぐった途端にたくさんの子供達の出迎えを受けた。


「拓海兄ちゃん!」

「拓海兄ちゃん、お帰りなさい!」

「ねえねえ、お土産は?」

「一緒に遊ぼうよ~」


 『太陽の里』を出て、丸六年を迎えようとしている。子供達の中には、自分と一緒に過ごした時期など皆無の者だっているのに、月に一度の頻度で訪れる優しいOBのお兄ちゃんに、皆はすっかり懐いている。


 拓海に構ってほしくて、我先にと手を伸ばしてくる子供達にわずかに困った表情を浮かべていたら、そんな輪の向こうから「こらこら」とたしなめてくる懐かしい声が聞こえてきた。


「皆、今日は拓海に渡したい物があるんじゃなかったか?」


 その声にぱっと顔を上げてみると、そこに新藤祐介が立っていた。にこにこと笑ってはいるものの、今も通院をしている祐介は、拓海が『太陽の里』を出ていった時よりも明らかに痩せた。昔は、あの腕にぶら下がって持ち上げてもらっていたというのに。


「渡したい物?」


 心当たりがなくて首をかしげる拓海に、子供達は揃ってふふふと笑った。そして、そのうちの一人が背中に回していた両腕を突き出し、両手に持っていた物を見せてきた。


「拓海兄ちゃん、誕生日おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとう~!」


 拓海の目の前に突き出されてきたのは、一枚の大きな画用紙だった。


 元は真っ白だったその画用紙には、色とりどりのクレヨンで男の大きな似顔絵が描かれている。髪型や目元具合からどう見ても拓海を描いたものであり、一番小さな子が綴ってくれたのか、おぼつかない文字で「たくみにいちゃん」と添えられていた。


「マジか……。お前ら、ありがとな」


 確かに今日は自分の二十四歳の誕生日だし、この後『Full Moon』で生誕祭イベントが控えている。でも、まさかこいつらに祝ってもらえるなんて思ってもいなかった。


 そんなつもりで帰ってきた訳じゃなかったんだけどなと、妙に照れ臭くて仕方ない。


 だが、それ以上に純粋に嬉しさが湧いてきて、画用紙を受け取った拓海は、子供たち一人一人の頭を撫でてやる。そして、ゆっくりと祐介の元まで歩み寄ると、「ただいま、先生」と告げた。

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