第6話
養護施設から自立した拓海は、始めは普通に就職をしようと考えていたが、すぐにその考えを打ち消さなければならない事態が起こった。
自分を保護し、養子としてくれた新藤祐介がほぼ同じタイミングで倒れた。心筋梗塞だった。
幸いにも症状は軽く、入院していた日数もさほど長くはなかったものの、夫妻共に還暦に近い年齢に達しようとしている。それに加えて、養護施設の老朽化も進み、経営は困難になりかけていた。
それでも新藤夫妻は、施設を閉鎖しようとはしなかった。実子がいない為に後継を探す事すら難しいのに、何の非もない不憫な子供達を路頭に迷わせたくないという一心で老体に鞭打った。
その姿を見て、何か一つでも役立つ資格を取っておけばよかったと拓海は後悔した。そして、せめて資金面だけでも援助しなければ。自分の育ったあの施設をなくしたくないという思いの下、拓海が飛び込んだのは夜の世界――ホストクラブだった。
ホストクラブ『Full Moon』の扉を叩いた時、オーナーの
「女にモテたいからとか、童貞を捨てたいからだとか。そんな理由ならやめとけや、世間知らずのガキンチョ」
拓海が差し出してきた内容の薄い履歴書をひらひらと揺らしながら、賢哉は挑発するように言い放つ。だが、拓海はそんな賢哉から一瞬も目を離さずにこう返した。
「そのセリフ、二年後にきっちり後悔させてやりますよ」
「ああ?」
「そして、俺を雇ってよかったと心から感謝してもらいます」
有言実行とは実に恐ろしいもので、それから二年後、賢哉は本当にそうする羽目になった。
見習いの新人ホストとして下積みから始まった拓海は、それから怒涛の速さで出世していった。キャッチに営業トーク、女性に対する気配りやホストとしての所作、その他あらゆるものを先輩達からどんどん吸収していき、二十歳の生誕祭イベントが行われた夜、『Full Moon』はまばゆい照明と高級シャンパンの山、そして彼の客ばかりでごった返しとなった。
かつて伝説のホストと銘打たれた自分でも、ここまで大仰な生誕祭イベントが行えてたかと賢哉が自問する中、拓海は誇らしげに言った。
「どうですか? 俺、まだガキンチョですか?」
「……お前がうちのNo.1だよ」
そう答えると、賢哉は拓海のワックスにまみれた髪を掴むようにして撫でてやった。
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