第4話

「たかが写真と文章に、どんだけ興奮してんだ。欲求不満か、お前ら」

「いやいやいや! これ見て興奮しない奴はいないっしょ!?」


 心外とばかりに、笙は離れたソファに座っている拓海に向かって、見ていたページを突き出す。そこにはベッドの上で全裸と思しき拓海が甘い表情で女性モデルの長い髪を掻き上げ、そのうなじにキスを落とそうとしている写真があった。


「セミヌードって言ってたのに、全部脱いでるし! 胸もがっつり揉んでるじゃないっすかぁ!」

「バカか、ちゃんとズボン履いてたわ。角度的にそう見えるように撮ってもらっただけで、胸だって指一本触ってねえ」

「嘘だぁ」


 なあ、と笙が周りに同意を求めれば、うんうんと彼らは一斉に相槌を打つ。何をそんなに疑っているんだと拓海が訝しんでいると、笙は女性モデルの顔のあたりを「これこれ!」と言いながら指差した。


「まさか知らないって事ないですよね!? 今超絶人気沸騰中のモデルのアイカですよ!? テレビで見ない日がないくらいのいい女じゃないっすか!」

「ふうん、そうか。やたらしつこく連絡先聞いてくるとは思ったが」

「アイカからまさかの逆ナン!? うらやましい! そ、それで!?」

「撮影終わった後で、名刺渡した」

「へ?」

「『Full Moon』でお待ちしてますって言っといたよ」

「そこで営業に持ってくのが拓海さんですよね。さすがっす!」


 期待していた答えとは違っていただろうが、納得がいったとばかりに笙はにこりと笑う。他の後輩達も似たような反応であり、これ以上この話が広がる事もないだろうと判断した拓海はソファから立ち上がって、彼らを一人一人見渡した。


「人を羨ましがってるヒマがあんなら、てめえを磨け。自分だけの武器を身につけて、店に来てくれる女達全員を全力でもてなせ。いいな」


 きりっと凜のある声を張り上げて鼓舞してやれば、彼らもぴしっと背筋を伸ばして「ウッス!」と気合いの入った返事を返す。


 よし、これで今夜も店は軌道に乗るだろう。明後日は俺の生誕祭イベントが開かれるし、一人でも多くの客を呼び込まなければ。


 開店まで、四十分を切った。確か二人か三人ほどから今日来店するといったメッセージが来ていたはずだと、拓海はスーツの内ポケットから営業用のスマホを取り出してチェックを始める。その横にすすっと笙が近付いてきて、再び先ほどのページを見せてきた。


「俺、この写真が一番好きっす。この写真の拓海さんになら、俺抱かれてもいいっす」

「あいにく、そんな趣味はねえよ」


 残念だったなと笑ってやってから、拓海は笙の少し広い額にでこピンをかましてやる。


 いってえと言いながらも笑っている笙の指は、上半身裸の拓海の右肩を指している。そこには、幅十センチほどの大きな古傷があった。

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