第一章 ホスト
第2話
『二人きりの時、俺が君に送るものは花でもアクセサリーでもなく、キスでありたい。
強く、弱く、大胆に、繊細に。
まずは君が俺を見つめてくる目を閉じさせ、そのまぶたに一つ。
くすぐったさに少し身を捩らせながら微笑んでいる、その頬にも。
まだ、唇には行き着かない。頬を通り抜けて、君の細いうなじへも一つ。
ピクリと震えた背中に一つ。そこから俺が腕を回して抱きしめれば、君は安心したかのようにほうっと長い息を漏らす。その仕草に、俺の心は高揚する。
そっと君の右腕を取り、手の甲にもゆっくりとキスを落とす。体温を移すように、俺のほんの一部でも、君に届くようにと願いながら。
不安や緊張から始まっていたであろう、君の身体の強張りが溶けていく。
俺にしなだれかかる柔らかな肌は、とても白くて美しい。触れ合う君と俺の肌の色や質は違うけれど、今この時を刻む心音はぴたりと重なり合っている。
君と一つになりたい。心からそう思える瞬間。
きっと、君もそうなのだろう。また、君の両目が閉じる。一番最後まで大事に取っておいた場所に、俺はようやく唇を落とす。俺と君の何もかもが、一つになる。
甘やかでとろけそうなほどのキスの後、彼女は俺の右肩にそっと触れる。
「ねえ、ここにキスしていい?」
今日初めての彼女のワガママを、俺はもう一度唇で塞ぐ前に言った。
「君の全てを、見せてくれるのなら」
そうして俺と彼女は、ベッドの中で互いの熱の虜となる――。』
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