第114話
「安心しろ、そんな心配は一切必要ないからなぁ……」
何を考えているのか、タツさんはにやりと不敵な笑みを浮かばせた。これには驚いたが、きっと俺よりも田沢良一やその母親はもっと驚いた事だろう。
「し、心配いらないって……どういう事だよ!?」
今にもかんしゃくを起こしそうな勢いで、田沢良一が噛みついてくる。だけどタツさんはまさに余裕綽々とばかりに、あごを突き出しながら、
「だって愛子、もうすぐ独立するからな?」
と、言い出した。
これには田沢良一はもちろん、俺も相当驚いた。何だそれ、何も聞いてないぞ!? まさかそれって、杠葉さんも掴んでいなかった新情報か? それとも息子さんとの面会日に会った時、本人から直接聞かされた特大級の機密事項って奴なのか!?
「う、嘘だ、そんなの!」
少しの間、呆然としていた田沢良一がはっと我に返って再び噛み付いた。
「そんな事、愛子たんは何も言ってなかった! あんなに、僕との結婚を真剣に考えてくれてたのに!」
「バカか、お前。愛子が真剣に考えてんのは、いかに俺や俺達の息子と幸せに生きるかって事で、そこにお前の入る余地なんか欠片もねえんだよ!」
「そ、そんな……」
「しかも、聞いて驚けってんだ。愛子は着々と自分のオリジナルブランドを立ち上げる準備をしてるんだが、早くもたくさんの顧客って奴を捕まえてるぜ。もちろん、お前らの会社の所からも、な……」
「な、何だって!? そんな事されたら……!」
「そうだろうなあ。何せ愛子の実力のおかげで売れてるような会社だ。おんぶにだっこ状態のくせに、ちょっと男の趣味がいいからって追い出すタイミングを見誤れば……このご時世、潰れるのは時間の問題ってかぁ?」
ひゃっはっは! タツさんの下品な笑い声が家じゅうに響き渡る中、今度こそ田沢良一とその母親の表情が絶望一色に染め上がった。
さすが、タツさん。強請ろうとしていた相手が逆に強請ってきても一切動揺せず、さらなる強請りの上書きで黙り込ませるなんて。まさかこんな奥の手を隠し持ってるなんて思いもしなかった。見かけによらず、かなりの慎重派なんだな。
俺がそんな事を思ってるうちに、タツさんは持っていたスマホのカメラ機能を開いて、再びぺたんと腰を抜かしてしまったマヌケな体勢の田沢良一と、もう何も言う事もする事もできない母親の姿を連写しながら言った。
「お前らのささやかな反抗が終わったところで、今度はこっちの用件を聞いてもらおうか。この薄汚ねえ写真や動画、音声データを会社や世の中に公開してほしくなかったら、二度と俺の女に手を出すんじゃねえ! それから、俺の女の視界にも入るんじゃねえ! あいつの腕も目も腐るからな!」
「な、それって、つまり……」
「二日だけ待ってやる。その間に『Pretty Butterfly』を辞めてなかったら……その時は、魚のエサになるか山の養分になるかを選ばせてやるよ!」
タツさんのその言葉に、ぼろぼろと涙をこぼし始めた田沢良一の履いていたおむつから、ものすごく嫌な臭いが漂ってきていた。
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