第100話
「どうしたんですか、聡くん?」
質問しているくせに、ちっとも不思議そうな顔をしていない杠葉さんにほんのちょっとだけイラッとした。でもそれは、さっき俺の事を軽くディスられたからとかじゃなくて、同じ男として今のタツさんをほっとけなくなったからっていう、俺らしくもないキザっぽい理由だった。
「タツさん、頭下げてるじゃないっすか」
俺は、杠葉さんをにらむように見つめながら言った。
「依頼してるじゃないっすか」
「さっきの私の言葉、聞いてましたか? うちの社訓の一つである……」
「頭下げて依頼をしてきている以上、裏メニューの私用って事じゃないですよね?」
「……」
「俺、我慢できません。タツさんの元奥さんが、あんな男の毒牙にかかるって分かってるのに、それを止めずにほっとくなんて。今なら、元奥さんを助けられ……」
「聡くん、勘違いしてませんか?」
「え?」
「私達の裏メニューは、確かに依頼人を助ける為の手段ですが、いつ私達が正義の味方になったとでも思いました?」
俺のにらみつけなんて、所詮は小学生レベルとでも言いたげに、杠葉さんの鋭い視線が俺を射抜き返してくる。俺だけじゃなくて、今日子ちゃんやタツさんもビリビリと肌に来る何かを感じていた。
「私達のやってる事は強請り、すなわち犯罪ですよ?」
杠葉さんが言った。
「使用目的がどうあれ、法によって定められていない手段を用いている事に変わりありません。それを個人的な事情で使っていては、いずれ歯止めがきかなくなって暴走するパターンが高くなります。だからこそ……」
「杠葉さん、頼みます! この通りだ!」
たぶん、タツさんの頭の中には、杠葉さんの言ってる社訓とやらがしっかり入ってるんだろう。それを糧に、今までずっと探偵業も裏メニューもきっちりこなしてきたんだ。そうやってずっと彼女の言う事を守ってきた人が、恥も外聞もかなぐり捨てて、一度は心から大事だと思っていた女性を守りたいと思って頭を下げてるのに。
なおも断ろうとする空気を出している杠葉さんに、俺がもう一度何か言おうとした時だった。
「……いいんですか、杠葉さん?」
ふいに、パソコンの画面に顔を向けっぱなしの状態の今日子ちゃんがぽつりと言った。
「また、
「……っ!?」
空気が一気に入れ替わったような気がした。何故か今日子ちゃんのその言葉に、杠葉さんは驚愕の顔で振り返ってくるし、さっきとは段違いの動揺で足をふらつかせている。すぐ目の前にあったデスクの角を掴む事で一時的な支えを手に入れたものの、両肩が荒い呼吸と共にしっかりと動いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます