第97話
ムカつくくらい、いい家だった。
周囲の家はそこそこ一般的な大きさの高さや造りをしていると思うが、田沢良一の家はそれらの側に建っているにはあまりにも不釣り合いっていうか、かなり浮きまくっていた。
周りよりひと回り大きいレンガ造りの三階建て、その入り口である玄関ドアは超分厚くて派手な装飾が施されている。二階と三階のベランダはこれ見よがしって感じでバルコニー風にしてあるし、そこから見渡せるように造られてる庭には一面芝生が敷き詰められていて、おしゃれなティーセットの置かれた真っ白なテーブルと椅子まであった。
田沢良一の父親がどんだけ株や投資で儲けていたか知らないが、残すもん残しすぎだろ!? 家の外装だけでこんな立派だったら、内装はもっとすごいんじゃないか? これ、もし深山さんがタツさんの息子さんの事を考えてなかったら、二つ返事でプロポーズOKしていい案件だろ。少なくとも、俺が女だったら……。
「よし、行くわよ」
ちょっとした妄想に突入しかけていた俺を、杠葉さんの声がこっちへと引き戻す。見ると、杠葉さんはとっくに電柱の影から飛び出していて、田沢良一の家の前まで走っていた。
それに慌てて追いかけて、すぐに追い付いた。すると杠葉さんは俺がちょっとビビった玄関のドアには全く見向きもしないで、青々としている芝生の庭と塀のあたりをきょろきょろと見回していた。
「参ったわね」
カメラや例の盗聴器を用意しながら、杠葉さんが言った。
「こんなに芝生を使われていたら、中に入っていく事ができない。足跡は付かなくても、侵入の形跡が残っちゃう」
「……」
「せめて、あの人達がこっちまで来て、窓も開けてくれたらね」
「そんな事でいいんですか?」
えっ、と杠葉さんが問い返す前に、俺は足元の少し大粒な砂利を掴み取る。そして、それを田沢家の一階にある庭に面したガラス窓に向かって、思い切り投げ付けた。
バンッ、ババババッ!
絶妙な大きさの小石に、それに見合うだけの力で投げたんだ。窓ガラスは割れる事は全くなかったが、それでも不快な音を立てるには充分で、中にいた二人が様子を見に近付いてきた。
「……な、何だ何だぁ!? 突然、誰の仕業だよ」
「いやあね、小学生のいたずらとかかしら? 庭に出てなくてよかったわぁ」
出てきてくれた田沢良一と、彼の母親と思しき老婆。その二人を見た瞬間、俺はあまりのショックでさっき以上に体が固まって動けなくなった。
「なっ、なっ……!?」
「長い間、この仕事をやってきましたが……さすがにあんなパターンは初めてです……」
杠葉さんも表情が強張っていたが、それでもプロの意地とでもいうべきか、写真撮影や盗聴を必死にこなしてくれていた。
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