第81話

「……深山愛子。先日、世界的な女性向けファッションブランド『Pretty Butterflyプリティバタフライ』日本支社にて記録的な販売成績を塗り替えた、新進気鋭の人気デザイナーだとこの雑誌に紹介されています。彼女の、女性の魅力を最大限に引き出しているラインの魅せ具合や胸元を色鮮やかに引き立てるデザインは他の追随を決して許さず、彼女のデザインした服を求めるがあまり、数時間もかけて店舗を回るファンも少なくないそうです。座右の銘は『人間の美は、心から始めていくものである』。只今、夏に向けてのオリジナル新作を鋭意制作中との事ですよ?」


 事務所から一番近いコンビニで、少し分厚いファッション雑誌を買ってきた今日子ちゃんがあるページを開いて、そのまま音読する。それを自分のデスクで聞いていたタツさんだったが、ついに脱力してしまい、自分の額をデスクの上にゴチンッとぶつけさせるように伏せてしまった。まあ、無理ないだろうけど。


「タツさん、とんでもない相手にケンカ売っちまったんじゃね?」


 俺は顔を隠すように伏せたままのタツさんの背中に声をかける。俺の声にタツさんは全身で返事をするかのように、びくっと一度震わせる。どうもその点は、しっかりと自覚があるようでよかった。


「確かに、聡くんの言う通りかもしれませんね」


 俺に続いて、杠葉さんまでも同じような事を言ってくる。それがまさにクリティカルヒット! みたいな感じの一撃になったのか、ようやくタツさんの顔がちらりと持ち上がった。いつもだったら、もっともっと顔つきを歪ませて怖い表情を貼り付けさせて仕事に臨んでるっていうのに、今じゃ小さな迷子の子供みたいだ。


 杠葉さんが、タツさんを見つめながら言った。


「それにしても、困りましたね。まさか前回と同じ手を二度も使う訳にはいきませんし」

「え……。あのお客さん、前にもうちを訪ねてきた事が!?」

「ええ。まあ、その時はタツさんからの依頼だった訳ですが」


 そう答えた杠葉さんの顔に苦笑いが浮かぶ。それを見て、今日子ちゃんは情けないと言わんばかりに肩をすくめてみせた。


「杠葉さん。今回ばかりは私、協力しかねます」

「あら、どうして?」


 杠葉さんはきょとんとしながら聞き返したが、対してタツさんはまるでこの世の終わりを見てきたかのように、一気に顔色が悪くなる。例えるなら、まるでムンクの代表作『叫び』の中にいる人物みたいだ。


「ちょ……、今日子ちゃん。何でそんな意地悪言うんだよぅ……」


 プルプルと震える右手をすがるように伸ばしながら、タツさんが言った。

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