第81話
「……深山愛子。先日、世界的な女性向けファッションブランド『
事務所から一番近いコンビニで、少し分厚いファッション雑誌を買ってきた今日子ちゃんがあるページを開いて、そのまま音読する。それを自分のデスクで聞いていたタツさんだったが、ついに脱力してしまい、自分の額をデスクの上にゴチンッとぶつけさせるように伏せてしまった。まあ、無理ないだろうけど。
「タツさん、とんでもない相手にケンカ売っちまったんじゃね?」
俺は顔を隠すように伏せたままのタツさんの背中に声をかける。俺の声にタツさんは全身で返事をするかのように、びくっと一度震わせる。どうもその点は、しっかりと自覚があるようでよかった。
「確かに、聡くんの言う通りかもしれませんね」
俺に続いて、杠葉さんまでも同じような事を言ってくる。それがまさにクリティカルヒット! みたいな感じの一撃になったのか、ようやくタツさんの顔がちらりと持ち上がった。いつもだったら、もっともっと顔つきを歪ませて怖い表情を貼り付けさせて仕事に臨んでるっていうのに、今じゃ小さな迷子の子供みたいだ。
杠葉さんが、タツさんを見つめながら言った。
「それにしても、困りましたね。まさか前回と同じ手を二度も使う訳にはいきませんし」
「え……。あのお客さん、前にもうちを訪ねてきた事が!?」
「ええ。まあ、その時はタツさんからの依頼だった訳ですが」
そう答えた杠葉さんの顔に苦笑いが浮かぶ。それを見て、今日子ちゃんは情けないと言わんばかりに肩をすくめてみせた。
「杠葉さん。今回ばかりは私、協力しかねます」
「あら、どうして?」
杠葉さんはきょとんとしながら聞き返したが、対してタツさんはまるでこの世の終わりを見てきたかのように、一気に顔色が悪くなる。例えるなら、まるでムンクの代表作『叫び』の中にいる人物みたいだ。
「ちょ……、今日子ちゃん。何でそんな意地悪言うんだよぅ……」
プルプルと震える右手をすがるように伸ばしながら、タツさんが言った。
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