第60話

……何だよ、これ。何なんだよ、これって!! 今時の小学生って、ここまで残酷になれるのかよ。何をどう間違ったら、ここまでひどい事を平気で……!


「お前、何でっ……うっ!」


 桐野良彦に何か言ってやろうとする前に、俺は急激にせり上がってきた吐き気に耐えられなくて、思わず口を押さえたまま膝を付いた。「おいっ……!?」とタツさんの心配そうな声が聞こえてこなかったら、たぶんやらかしてた。それくらい、衝撃的な映像だったんだ。


 もう二度と拝みたくなくて、ぎゅうっと両目を閉じていたら、何とか吐き気が治まり、胃液が少し口の端から垂れた程度で済んだ。それをこぶしで拭っていたら、何も変わりない杠葉さんの冷静沈着な声が聞こえてきた。


「この動画に映ってるの、どこからどう見てもあなた方の息子さんですよね」


 ゆっくり視線を持ち上げてみれば、杠葉さんは笑っていた。まるで長年の付き合いのある友達と他愛ない世間話をしているかのように楽しげに、そして何より美しく優雅に。


 一方、桐野良彦とその両親は杠葉さんとは全くの真逆だった。完全に表情をなくして顔色は悪いし、母親に至っては今にも失神してしまいそうなほど息遣いが荒い。父親は悪魔か化け物でも見るかのような目で息子を見てるし、その桐野良彦も動画から目が離せないまま、歯をガチガチと打ち鳴らしていた。


「先ほど息子さん、この動画を見ながら言ってましたよ。『抵抗できないオモチャは勉強のストレス発散にもってこいだもんなぁ』って。さしずめ被害に遭ってる彼は、息子さんのサンドバッグといった体でこれまでやられてきたんでしょうね」

「なっ、そ、そんな事は」

「あるでしょ? 昨日は昨日で、また別の相手をいじめてましたしね」


 そう言うと、杠葉さんは一度ノートパソコンを自分の足元に置くと、懐から何枚かの写真を取り出してこの場にいる全員に見えるように掲げてきた。もちろん、俺がいる位置からもばっちり見え、また思わず目を逸らしたくなった。


 その何枚かの写真に写っていたのは、体じゅうにひどい傷を負っている子猫だった。元々は白い毛並みを持っていたようだが、傷口から出ている血と泥のせいですっかり汚れている上、よっぽど怖い思いをしたんだろう。怯え切った両目を伏せて、悲しそうに縮こまっている姿ばかりだった。


「そ、そいつは……!」


 身に覚えしかないんだろう。桐野良彦は写真を見るなり、動揺して決定的な言葉を口に出した。


「何でそんな写真あるんだよ!? そいつは俺の秘密の遊び場にまだ縛り付けて……ああっ!!」

「ええ、確かに縛り付けてましたね。針金で」


 ぐしゃっと、杠葉さんの手の中で写真が握り潰される。まだ優雅に笑っていたけれど、杠葉さんは怒っている。メチャクチャ怒ってる。これはタツさんがごくりとつばを飲み込んでいたから、もう間違いないと思った。

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