第47話
「は……? いじめ? 何を言って……」
これまで一度も、それこそ一瞬だって思いもしなかった単語が出てきてよっぽど動揺しているのか、園田芳江は全身をガクガクと震えさせ始める。そりゃ信じたくないだろう。いじめだなんて、そんなもの誰だってどこか他人事で、自分には絶対関係ない事だって思い込んでいたいものの一つなんだろうから。
でも、これが真実なんだって事を、杠葉さんはその目で見て、その耳で聞いて、調べ尽くした事全てをその口で語っていく。
「隆司君がいじめに遭い始めたのは、半年ほど前からです。きっかけはほんの些細な取るに足らない事だったのですが、彼がこの約180日間の中で受けてきた被害は、とても私の口から言えるものではありません。こちらに詳細をまとめてはありますが、読む事を強制も致しません。それくらい、ひどいものです」
「何、バカな事を言ってるの! そんな事あり得ないわ!!」
杠葉さんがすっとローテーブルの上に差し出した何枚かの書類を、園田芳江は思いきり薙ぎ払う。はらはらと事務所の中を舞うその書類達には細かい活字がびっしりと記されていて、いつのまにこれだけ調べたんだと思う。まさか、昨日俺と別れてからすぐに動いたのか……?
「隆司は、私には何も言わなかった!!」
園田芳江の怒鳴り声は続いた。
「毎朝、いつもみたいにおはようって言ってくれるし、学校に行く時だって行ってきますの挨拶を欠かさない! 学校に行きたくないとか、いじめに遭ってるとか、そんな事一度だって言った事ない。毎日毎日元気で、笑顔で学校に行っていたわ!!」
「お母さんに心配をかけさせたくなかったんでしょう。いじめを受けている子供の大半が、そのような思いを抱く傾向があります」
「じゃあ、どうして主人は!? あの人は隆司のいじめを知る事ができたっていうの!? 私なんかより、ずっと隆司と一緒にいる時間が短いのに!!」
「あら、嫌だ。園田さん、ご自身で言った言葉には責任を持ってもらわなくては困ります」
「どういう意味⁉」
「おっしゃってたではないですか、『優しい父親アピール』をしたいから気まぐれに息子と遊んでくれているって。それって、たまには一緒にお風呂にも入ってたって事ではなくて?」
杠葉さんのその言葉に、園田芳江は大きく息を飲む。俺は一瞬意味が飲み込めなかったけどぽかんとしちまったけど、少しの間を置いて分かってしまった。父親と一緒に風呂に入る事でいじめられているのが分かるって事は、
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