第33話
二時間後。俺はタツさんから渡された真新しいツナギ服に着替え直して、ある小学校の校門前に来ていた。
市立
「俺は園田幸人の身辺調査をしてくるから、聡はその小学校に潜入して、新見綾香の様子を見てきてくれねえかな。よく観察して、ちょっとでも怪しいと思った事はきちんとメモするように。いいな?」
そう口早に言って、まるで逃げるようにタツさんは行ってしまった。これさえ持ってれば怪しまれる事はないからと、ツナギ服の他に押し付けられるように渡されたのは、軍手とほうきとちり取り、後は『高峰小ボランティアスタッフ』と書かれている腕章だった。
こんなもんが何の役に立つんだと思いながら、校門前に立ち尽くしていた俺だったが、ふと背後から「あらぁ~?」とやたら大きなおばさんの声がして、大げさなくらい肩が震えてしまった。何事かと振り返ってみれば、そこには何人かのおばさん達が俺と同じ格好をして、俺をじろじろと見ていた。
「あなたも今日の校内掃除ボランティアに来て下さった方? ずいぶんお若いようですけど、どなたの保護者さんかしら?」
そのうちの一人が、いぶかしげに尋ねてくる。まあ、こんなご時世なんだから、いろんな意味で疑われるのも仕方ないか。俺は、タツさんにあらかじめ「こう言っておけば大丈夫だから」と言われて、顔を伏せながら覚えさせられたセリフを言った。
「……お、俺は、曽我さんの遠い親戚で、す……。俺、昨日の自分から、少しでも変わりたくって。そしたら、曽我さんがここを紹介してくれて、だから……」
言ってみた後で思うのも何だけど、何かこれって、俺がものすごく訳ありで触れてほしくない重い過去を持ってる奴に聞こえねえか!? 元劇団俳優だけあって、いろんな人物設定を考えるのは得意なんだろうけど、もうちょっとマシなものあっただろ!
だが、俺が思っていたより効果があったのか、俺のセリフを聞いたおばちゃん達はとたんに両目をウルウルとさせて、俺の周りに集まってきた。
「そう! 曽我さんの親戚のお兄さんなら、問題ないわね!」
「苦労したのね、お兄さん! 大丈夫よ、今日は曽我さんの代わりに私達がいろいろ面倒見てあげるわ!」
「頑張って、立ち直りましょうね!!」
それぞれそんな事を言いながら、おばちゃん達は俺を校内に連れて行ってくれた。
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