第30話
午前十時三十分。俺達は予定通り、依頼主である園田さんの家の前に到着した。
特に目立つような見映えがする訳でもない、ごくごく普通の庭なし一軒家。玄関の周りにいくつかの古ぼけた鉢があって、何かの小さな花のつぼみがぽつぽつと出始めている。植物には全然詳しくないから何の花かちっとも分からなかったが、まだ熟れてない緑色のつぼみの割れ目が赤みがかっていたから、たぶんもう少しで真っ赤な花が咲くんだろうなと思った。
そんなつぼみのある鉢をぼんやりと眺めている俺を気にする事もなく、タツさんは目の前にあるインターホンのボタンを一拍も置かずに押した。ピィン、ポォン……と、何だか間抜けな音が玄関の向こうで響いていた。
『……はい』
少しして、インターホンのスピーカーから割れた声の返事が来た。タツさんはそこにほんの少し顔を近付けて、「おはようございまぁす!」とさっきまでとはまるで違う明るい声を出した。
「ご依頼いただいておりました
『……お待ちしてました、どうぞ』
一瞬、息を飲んだような音が聞こえたけど、すぐに冷静になったようで、インターホンの声の主が俺達を招く。「はい、それでは作業に入らせてもらいますね!」と脚立を持ち直したタツさんが先に玄関の方へと向かっていくが、その際、俺にしか聞こえないような囁き声でこう言ってきた。
「さりげなく、あたりを確認しろ。周囲に誰もいないか、もしくは誰かの気配か視線がないか……とかな」
徹底してるな。作業員のふりをして家に入るのに、その姿すら極力見られないようにしているだなんて、何かのドラマみたいじゃんか。
言われた通りに、あたりを見渡す。午前の中途半端な時間の中にある住宅街だから、誰一人の姿もない。気配や視線を感じるだなんて、バトルマンガの主人公じゃないから分かるはずもない。結論、誰もいない。誰にも見られてない。
ほっと安心して、俺は玄関のドアの所に立っていたタツさんに向かって、「OKです」と大きな丸を両腕で作った。
タツさんがこくりと頷くのと、玄関の鍵が開けられて大きく開かれたのはほぼ同時で。そこから現れたのは、杠葉さんとほぼ同年代と思われるきれいな奥さんだった。
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