第二章
第29話
「……えっと、じゃあ改めて復習な? 今からお伺いする依頼主の名前は
歩く道すがら、タツさんはかなり真剣な声色でそう言ってきたが、その格好はかなりミスマッチだった。いや、かくいう俺もなんだけど……。
「あの、タツさん」
「ん、どうした? 何か質問か? 分からない事があったら何でも聞いてくれていいぞ」
「じゃあ、聞くけど……何で俺達こんな格好してんの!?」
そう言って俺は、さっき事務所の給油室で無理矢理着替えさせられた服を上から下まで見渡した。
うん、どう見たってこれは、とび職の人達なんかがよく着ているニッカポッカって奴だよな!? もうどんなに洗濯したって落ちそうにない油汚れがまるで模様みたいにびっしり付いてるし、ダボダボのパンツが落ち着かなくて歩きづらい。成人式はスーツで出席したから、足袋なんてもう七五三の時以来だぞ。両足の親指と人差し指の間が今にも裂けてちぎれそうなほど痛い!!
そんな恥ずかしくて動きにくいという同じ格好をしているはずなのに、タツさんはまるで何の問題があるんだと言わんばかりに着こなし、すたすたと歩いてみせている。おまけにその両手にはペンキ缶と小さな脚立を携えて。
「何でって、依頼主の意向だから?」
タツさんは俺の質問にさらっと答えた。
「依頼内容が内容だけに、他の誰にも知られたくないんだとさ。だから俺達も雇われた探偵だとご近所に悟られないように来てくれって言われてな」
「だからって、何でこんな……」
「まあまあ。これから先、もっといろんな格好をする事になるんだから。女装に比べたら大した事ないだろ?」
「え……」
「自分で化けててなんだが、さすがに女子バレー選手団の中に混じって調査するのはきつかったなぁ」
あっはっはと笑いながら、さらに先を進んでいくタツさん。いくら元劇団俳優だからって、そこまで自分を捨てて探偵やれるもんなのかよ……。
もし杠葉さんから圧のあるお願い事をされたとしても、女装だけは絶対に断ってやる。そう思いながら、俺はタツさんの後を追った。
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