第28話
「……すみません、曽我達雄遅れましたぁ!」
「ちょっとぉ!! うちのかわいいマリアンヌちゃんを早く探し出してちょうだぁい!!」
午前十時ぴったりになって、二人の人影が慌ただしく事務所の中に流れこんできた。一人はものすごく派手な格好が鼻につくけばけばしい化粧をした五十代くらいのおばちゃん。そしてもう一人は、間違いなくタツさんだった訳だけど……。
「ちょっ、おい……タツさん、ぷぷっ……!」
これからけばけばしいおばちゃんの相手をしなくちゃいけない杠葉さんと今日子ちゃんは必死に耐えてたようだけど、俺はどうしても我慢できなかった。昨日とは打って変わって、少しくたびれたカットシャツにズボンっていうありふれた格好のタツさんだったんだけど、その上に着けてたのが小さい子供に絶賛大人気中のアニメキャラクターが大きくプリントされたエプロンって……!
俺の様子からすぐに自分の格好の恥ずかしさに気付いたらしく、タツさんはずかずかと足音を立てて入ってくるおばちゃんの影ででかい図体を小さくさせながら、こそこそとエプロンを外し始めた。
「ま、まさか俺、家からずっとこのまんまで……? うわ、一生の不覚っ……!」
「なぁに~? あのマヌケっぽい人も探偵な訳? あんな変なエプロン着けるような人に、うちのかわいいマリアンヌちゃんを見つけられるの~?」
ただでさえ羞恥心でいっぱいだろうタツさんに、おばちゃんの容赦も遠慮もない言葉が降ってくる。何だ、このババア。絶対いろんな店で、店員とかに横柄な態度やクレームをしまくってるだろ。
そう思ったらむかっ腹が立ってきて、何か一言言ってやろうかと思ったが、それより一瞬早く、杠葉さんがおばちゃんの前に立っていた。
「いらっしゃいませ、真壁様。当事務所の代表を務めております佐伯杠葉です。今回は私が担当致しますので、どうかご安心を。必ず結果を出しますので」
「あら、そう? じゃあ、さっそく話を聞いてもらおうかしら?」
凛とした杠葉さんの声に単純にも安心したのか、おばちゃんは下品な笑い声を立てる。そんなおばちゃんをちらりと見た後で、今日子ちゃんが俺の元に何枚かの書類を持って近付いてきた。
「先ほどお話した資料です。タツさんも、よろしくお願いします」
「……お、おう。今日も一日頑張るぜ!」
エプロンをくしゃくしゃに丸めながら苦笑いをするタツさん。俺は今日子ちゃんから押し付けられるように渡された書類に目を落とすと、どうしても深いため息をつかずにはいられなかった。
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