第24話

「ごめん。最初の俺のあんなやり方を見て、第一印象最悪だった事は認めるよ」


 そう言うと、タツさんはぴたりと立ち止まる。そして一度姿勢をしっかり正すと、三十度の角度できれいに頭を下げてきた。


 これにはさすがに驚いたし、絵面的にもかなりキツイだろ。いい年をした図体デカいおっさんが、ひと回り近く年下の若造に頭なんて下げてるんだ。下手したらオヤジ狩りかなんかと勘違いされて、警察に通報されるってパターンもあるぞ。俺はタツさんの頭を上げさせようと、必死になった。


「ちょっ……マジで勘弁して下さい、えっとタツさん! 確かにびっくりはしたけどっ!」

「でも、聡……」

「ただ! ただ、俺に務まる気がしないんですよ。圧に負けて入社はしたけど、とても俺が強請り屋なんてできる訳が……だから、通常の探偵業とか事務所の掃除とかは頑張るんで!」

「いや、できるよ」

「はあ? 何言って」

「最初があんなんだったから、誤解するのは当然だと思うけどな」


 ようやく頭を上げてくれたタツさんは、今度はとても真剣な顔で俺と向き合う。元劇団俳優か何だか知らないけど、杠葉さんとはまた違った意味で、その目の奥に引き込まれる何かがあった。


「俺達は……いや、杠葉さんは誰彼構わず、強請りをするような悪党じゃない。本当に困っていて、でも誰にも助けを求める事のできない人の為にその手段を使ってるだけに過ぎないし、その過程で得た金も必要以上に懐に入れたりしない。こう言うときな臭く感じるかもしれないが、正義の心を持った強請り屋なんだよ」

「せ、正義の心って……」

「だから頼む。だまされたと思って、一緒に働いてみてくれ。きっとお前も杠葉さんの心意気に惚れるはずだ。少なくとも、俺も今日子ちゃんも惚れ抜いて一緒に仕事やってるんだから」


 頼む! と、また頭を下げようとしてくるので、俺は慌ててタツさんの両肩を抑える。昔、何かのスポーツで鍛えていたりしたのか、タイヤみたいな分厚い感触に驚きを隠せなかった。


 こんなにがっちりとしていて、ぱっと一見すれば怖そうな印象の方がはるかに強いのに、実際話してみれば誰かの事ばかり心配している優しい性格のタツさん。そんな彼にここまで頼み込まれたせいなのか、俺は「分かりました」以外の返事を出す事ができなかった。


 駅に入り、一緒の電車に乗る。そして二駅進んだところ「また明日な」と満面の笑みで手を振りながら、タツさんは開かれたドアの向こう側へ消えていった。


 その後ろ姿を人ごみの合間から見送った俺は、不思議で仕方なかった。どうしてあんなに優しいタツさんが、そして今日子ちゃんが、さらには杠葉さんも強請り屋なんてやり出したんだろうと。

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