第22話

「最後に言っておきます、聡くん」


 今回の仕事内容の説明を全て終えた後で、杠葉さんがとても真剣な表情を俺の方に向けながら言ってきた。


「私達は、依頼主であるひとみさんから必要以上の金額など戴いてません。三田山耕太郎が振り込んでくれたお金と一緒に彼女へお渡しする百万円は、彼が会社から盗み出したお金と同額であり、幸いな事にまだ会社の方も気付いていませんので、元通り返すようにと伝えてあります」

「……」

「そして、島田絵美にはきっちり脅しをかけておきましたので、今後一切、三田山耕太郎に被害が及ぶ事もないでしょう。本当の悪事を働く者こそが、真に罰を受けるべきなのですから」

「で、でも、その三田山って人がずっと怯え続けて……取り返しのつかない事をしでかしたら」

「……それだけは絶対にあり得ないと、先ほど言いましたよ? 聡さん」


 俺の言葉を遮るようにそう言った今日子ちゃんが、またまた素早くノートパソコンのキーを操作する。そして十秒かそこらで、その画面を俺の方に向けて見せてくれた。それはたぶん監視カメラからの映像なんだろうけど、どこかの公園で元気そうな男の子と一緒にブランコで遊んでいる三田山耕太郎の姿が写っていた。


「三田山家より一キロほど離れた所にある児童公園です」


 淡々と今日子ちゃんが言った。


「ご覧の通り、三田山耕太郎には四歳になる一人息子がいて、近所でも評判の子煩悩ぶりです。島田絵美や達雄さんからの度重なる脅しや強請りに心折れずに耐えてきたのも、あの子の存在があってこそでしょう。ここまで耐えてきたのですから、今更あの子を置いてどうこうなろうなんて思わないでしょうし、そもそもそんな気さえ起こさせません」

「な、何でそんな事言えんだよ……」

「何で、ですって?」


 俺の疑問に、今日子ちゃんはふふっと鼻で笑ったような気がした。タツさんに至っては隠す気なんてさらさらないようで、「お前、おもしれえなぁ~!」とあっはっはと笑い転げる。


 何がそんなにおかしいんだよと文句を言いたかったが、そんな俺の言葉より一瞬早く出たのは、杠葉さんのこんなセリフだった。


「私達を、その辺にいる二流三流の強請り屋と一緒にしちゃダメですよ。聡くん」

「え……」

「ユズリハ探偵事務所は、アフターケアもばっちりこなす超一流の強請り屋なんですからね? 今後も、三田山さんの事は見守ります。もう心配ないと判断できるその日まで♪」


 そう言って、杠葉さんは笑った。この時の笑顔は、就職セミナーで見たものと同じだった。

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