第21話
気弱ではあるものの、家族に対しては誠実だし、些細な嘘一つつかない。趣味は月に一、二度程度のパチンコで、しかも小遣いの範囲のみで楽しむ。そんな夫がある日を境に、常に何かに対してビクビクし、顔色を窺うようになっていった。心配にならないはずもなく、ひとみはユズリハ探偵事務所を訪ねて身辺調査を依頼して……このファイルの中身を見せられた。
まず浮気とかではなかった事にほっとしたのも束の間、それよりももっと厄介な事に巻き込まれている事を知って、愕然としたそうだ。タチの悪い若者達に脅迫されている上に、会社のお金を盗んでしまうなんてと……。
そんな人に、杠葉さんはとどめの一言を発したそうだ。
「調査報告は以上になりますが、その過程で犯罪行為を知ってしまった以上、我々も国民の義務として警察に報告しなければなりません。よろしいでしょうか?」
「……そ、そんな。それだけはやめて下さい! 夫は、夫は罠にかけられたんでしょう!? それなのに私達家族に何も言えずに一人で苦しんで、こんな事を……なのに犯罪者扱いなんてあんまりです!」
「でも、犯罪は犯罪ですよ?」
「悪いのは、悪いのはこの女なんでしょう!? だったら、この女を警察に突き出して下さい! どうか夫は……!」
「島田絵美の罪状を証明するのは、なかなか骨が折れますよ? ファイルを見てご存知でしょうが、彼女の父親は娘溺愛の毒親資産家なので、娘の罪をもみ消すなんて朝飯前です。私達が何もしなくても、ご主人が破滅を見るのはおそらく時間の問題かと……」
「そんな、そんなぁ……」
ひとみは、わあっと大声で泣き出してしまった。だが、「普通の探偵なら、話はここでおしまいなんですが」と前置きしてから、杠葉さんはさらに続きを話してくれた。
「ですが、私達も鬼ではありません。依頼主の依頼を完璧に遂行する義務、そして責任というものがあります。そこで、どうでしょう?」
「え……」
「こちら、当社の裏オプションでございます。もし、あなたがお望みであり、なおかつ一生誰にも口外しないとお約束できますのなら、ご主人を救って差し上げます」
そう言って、杠葉さんはユズリハ探偵事務所の裏の顔である強請り屋業を用いて、三田山耕太郎に接触した。
まずはタツさんが会社の金を盗み出した事を知ってるぞと近付き、黙ってほしければ彼名義の口座に入っている有り金全部を指定した口座に振り込み直せと脅す。こうする事で、もう二度と島田絵美に金を渡す算段をなくさせた。ちなみに振り込ませた金は、さっき杠葉さんが言った通り、ひとみの口座に改めて振り込む事になっている。
その次は、今日子ちゃんの出番。さらに金を作る手段をなくす為、半径二十キロ圏内で店を構える金融会社全てのシステムデータにハッキングをかけ、ブラックリストデータに三田山耕太郎の情報を入力。一円たりとも借り入れができないようにした。そうした上で最後に杠葉さんが島田絵美に接触、脅して大金をせしめてきたって訳だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます