第13話
ガチャガチャと何度も鍵を回して、ようやく開けられた二階部分へと繋がるドア。その先へと入ってみれば、中は意外と小ぎれいな事務所といった十五畳ほどの風景を醸し出していた。
窓際に置かれている一番大きなデスクが十中八九、杠葉さんのものだろう。机自体はどこにでもあるような作業用の物だが、座り心地にこだわりでもあるのか革張りのリクライニングチェアーが不釣り合いなほど鎮座している。そんな杠葉さんのデスクを取り囲むように、同じ作業机が三台あった。
「聡さんのデスクはこれです」
先に十五畳の中に入って歩を進めていた今日子ちゃんが、向かって右側に置かれているデスクを手のひらで指し示した。
「半年ほど前に引退された前任者が使っていた頃のままにしてますので、いろいろな物が入っていると思います。処分するなり今後の糧にするなり、そのあたりはお任せします」
「は、はぁ……」
「杠葉さん、まだ戻ってないみたいですね。でもまあ、あともう少ししましたらもう一人の仲間が帰ってくると思うので、そうしたら私達の仕事がどのようなものかよりよく理解していただけるかと」
「そ、そうですか……」
「お茶を出しますので、とりあえず座ってて下さい」
そう言うと、今日子ちゃんは杠葉さんのデスクのすぐ脇にある小さなドアの向こうへと行ってしまった。そこから何やら水道の栓を捻る音とか、カタンカタンと棚を開け閉めしているような音が聞こえてくるから、たぶんあっちは給湯室って感じの部屋なんだろう。
全くもって、緊張する。少数経営の事務所だって言ってたから、絶対即戦力になる事を期待されているはずだ。ほんのちょっとヘマしただけで、採用取り消しかつ、はいさようならなんて事もあり得るかもしれない。
気合を入れねえとな。どんな仕事もビシバシこなして、この事務所をもっと大きく有名にしてやるんだ。そして願わくば杠葉さんの右腕的存在になって、それから……。
そんな、今時小学生でも考えないような事を夢見てた時だった。急に螺旋階段の方からガンガンガン、と二人分の乱暴な足音が聞こえてきたのは。
何だ何だと思いながら俺がドアの方を振り返るのと、そのドアが足音と同じくらい乱暴に開けられたのはほぼ同時で。その向こうから最初に見えたのは、やたら太くて長い男の蹴り上げた片足だった。
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