第三章

第43話

まただ、またあの夢を見た。家族四人で海に出かけ、子供の頃の僕と兄貴が一緒に遊んでいるあの夢だ。そして、その様子を現在の僕はまた遠い場所から見つめている。


「そっちのたかちゃんも、一緒に遊ぼうよ!」


 夢の中の兄貴はそう言って、何度も何度も僕を誘っては手を振ってくれた。相変わらず何の疑いも持っていない、無垢な笑顔だ。


 それなのに、僕はどんなに願っても、彼のその笑顔に応える事ができない。悲しいくらいに足が動かず、憎らしいくらいに言いたい事が言えない。だからまた、彼にあんな悲しい顔をさせてしまう。


「たかちゃん、僕の事が嫌いなんでしょ? 僕がたかちゃんの大事な物、全部取っちゃったからなんだよね……?」


 そうして何も言えないまま、何もできないままに、僕はまた現実の世界に引き戻される。まぶたを開けば、両腕はいつものようにまっすぐ突き伸ばされ、何もない空間を掴もうともがいている。


 いつも思う。僕はいったい、何を掴もうとしているのだろう。何を得ようとして、こんなにもあがいているのだろう。


 そして、自分に問いかけるのだ。


 仮にそんな事が分かったとして、今のお前にそれを手に入れる資格があるのか、と……。

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