第27話

美穂は、実に模範的な中学生だった。


 小学校から中学へと進学すれば、誰もが多かれ少なかれ、それまでの自分から何かが変わったような感覚を覚え、今までやってこなかった事もやってみようという変な冒険心を起こすものだ。例えば学校帰りに少ない小遣いをやりくりして買い食いしてみたり、男子なら成人雑誌をこっそり見たり、女子ならアイドルや化粧や小物アクセサリーに興味を示したり……。


 クラスの皆があらゆる事に関心を持ち、大声で騒ぎながらそれらを楽しんでいる中、美穂は図書館で借りてきた本を読んだり、僕や他の女子達とのんびり話をしたりとごくごく普通ではあったが、いつも優しい笑みを浮かべて毎日を過ごしていた。そんな慎ましさと、ぴしっと整った制服の身だしなみは先生達の目には品行方正と映ったのか、さほど成績優秀という訳でもないのに美穂の評判はすこぶる良い。


 だからだろうか。予鈴が鳴る前に教室に入る事ができた僕は何だか気になって、隣の席に座ろうとした美穂に聞いてみる事にした。


「笹川は、残りの夏休みどうすんの?」


 美穂が答えた。


「う~ん。予選は惨敗に終わったし、三年生も引退しちゃったしね。新人戦は二学期に入ってからだから、普通に夏休みを過ごせるかな?」

「じゃあさ、どこか遊びに行かない?」


 僕は軽い口調で切り出した。友達なんだから、当たり前といえば当たり前だが。


「カラオケとかボーリングとか。あっ、映画でもいいよ?」

「今やってる映画、アニメばっかりよ。そういうの好きなの?」

「やばい?」

「子供っぽく見られそうで、何かヤダ」


 くすくす笑いながら、美穂が言った。やっぱり、その優しい感じがとてもよく似合っている。僕はそう思った。


「それより、図書館で夏休みの宿題しようよ。緒形君、読書感想文とかまだやってないでしょ?」

「一応、本は読んでるけど」

「どうせバトルもののマンガでしょ?」


 図星を突かれて、僕はしゅんとうなだれた。それを見て、美穂がまたくすくすと笑う。


「はい、決まり。学校終わったらどこかでお昼一緒に食べて、それから図書館行こう。異議あり? なし?」


 いたずらっぽい声で迫ってくる美穂の言葉に早くも観念してしまった僕は、「……異議なし」と答えるしかなかった。

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