第二章
第26話
僕が由佳子さんと再会したのは一年後。僕が中学一年、兄貴が高校三年になった年の夏休みでの事だった。
その日は登校日だった。うだるような暑さ、そしてせっかくの夏休みなのにという気怠さと寝ぼけ眼の中、制服姿の僕は重い足取りで学校を目指していた。
学校の校門まで差しかかると、僕と同じような足取りの生徒が何人もいた。考えている事は皆同じかと自分勝手に納得していたら、「緒形君!」という元気な声が僕の背後から聞こえてきた。
その声に、僕はゆっくりと振り返る。すると、同じクラスで隣の席に座っている笹川美穂が笑いながら僕の方に駆けてくるのが見えた。
「笹川……」
「おはよう緒形君、元気だった?」
マネージャーとして陸上部に所属していた美穂は、一学期の頃と比べると健康的な小麦色の肌になっていた。それに対して、兄貴みたいに運動神経が良くなかった僕は、どこの部活にも入らず、ずっと冷房を利かせた家の中で一日の大半を過ごしていたのだから、かなり色白だ。そんな僕の視線に気付いたのだろう、美穂がはにかみながら言った。
「この前、予選会があってね。ずっと競技場にいたから、マネージャーなのにこんなになっちゃった」
「いいじゃん。きれいに焼けてるよ」
「何言ってるの、ケアが大変なんだから」
「今からそんなの気にしてんの? 大丈夫だって」
「何で?」
「中一だから」
「ふうん」
この時の僕達は、気の合う異性の友達という普通の付き合い方をしていた。
クラスに名字が「ア行」の男子が何人かいたせいで、名字が「サ行」の笹川であるにも関わらず、美穂は僕と出席番号が同じだったし、席も近い事から、一学期も半ばに入る頃にはもう気軽に話ができる仲になっていた。時々、親しげに話す僕達を見て「クラス公認ラブラブカップル」などと言ってからかう者もいたが、僕達は全く気にしていなかったし、友情以上のものはまだ感じていなかった。その証拠に、僕は美穂をまだ「笹川」と呼んでいたし、美穂も僕の事を「緒形君」と呼んでいた。
僕と美穂は校門をくぐり、昇降口を通って、教室へと続く廊下を肩を並べて歩いた。周りの生徒達も「暑い暑い」と言いながら、それぞれの教室へ向かっていく。僕達も例外じゃなかった。
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