第24話
「補欠だろうと何だろうと、堂々と座ってればいいじゃない。ベンチに座っている限り、緒形君は選手なのよ。ベンチ以外からのんきに高見の見物したって、決して試合には出られない」
「何だと……!」
「今の状態を悔しがるより先に、残りの一年をどうするかちょっとは考えてみたら? それもできないで弟に八つ当たりするのが最低だって言うのよ‼」
きっぱり言い切ると少女はそのまま踵を返し、部屋から出ていった。
僕は非常に迷いながら、去っていく彼女の背中と兄貴の姿を交互に見つめた。彼女の背中はどんどん遠くなっていくし、兄貴は両手のこぶしをぎゅっと強く握り締めたまま、唇まで噛み締めている。迷うに迷った末、僕は急いで少女の後を追った。
僕が少女に追い付いた時、彼女は玄関で靴を履いているところだった。僕は背中を向けたままの彼女に「あ、あの……」と話しかけた。
「なあに?」
僕に気付いた少女は、ゆっくりと肩越しに振り返る。あの黒髪がまた静かになびき、その向こうでふわりと優しい笑みがこぼれていた。
ここで初めて、僕はまともに少女の顔を見た。
やはり、とてもきれいな顔立ちだった。目も鼻も美しく整っていて、小さな口元がピンク色に輝いているようだ。僕はその事に若干照れを感じてしまい、目を泳がせながら聞いた。
「お、お姉ちゃん、本当に兄ちゃんのクラスメイトなの? バスケ部のマネージャーさんか何かじゃなくて?」
「そうよ、本当にただのクラスメイト」
ふふっと、その口元から笑い声が漏れる。僕は不思議で仕方なかった。
「どうして?」
「何が?」
「どうしてクラスの友達が、兄ちゃんをあんなに叱るの? 僕、クラスの友達とケンカはした事あるけど、あんなふうになった事ないよ?」
「そうね、変かもね。でも、私は緒形君のバスケ嫌いじゃないから」
「え?」
「もう一回見たいんだ、緒形君が試合に出て頑張ってる姿。初めてそれを見た時ね、すごいなって思ったの。緒形君がシュートを決めると、皆が一つになって喜ぶんだ。もちろん、私も嬉しいから喜ぶ。孝之君だってダンクシュート決めてもらった時、嬉しかったでしょ?」
「うん、すごく嬉しかった。ドキドキしたよ」
「そうでしょ。きっと緒形君もバスケをやっている時、同じ感覚だったと思う。それを思い出してほしいなんてのは、私だけのわがままなのかな?」
そう言って、少女は立ち上がる。この時の僕はわがままの意味がよく分かっていなかったが、首を大きく横に振って、少女の言葉の端に宿る不安を消し去ろうと懸命になった。
彼女の言った全ての言葉に賛成だった。それを汲み取ってくれたかどうかは分からないが、彼女はまた微笑みながら「ありがとう、孝之君」と言ってくれた。
「それじゃあね。お兄ちゃん、お大事に」
少女が手を振りながら、玄関から出ていこうとする。僕は反射的に「あっ、お姉ちゃん!」と小さく叫んだ。すると。
「
「えっ……?」
「
そう言って、彼女は玄関の向こう側へと行ってしまった。これが、僕と由佳子さんの最初の出会いだった。
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