第18話
「だって、もう俺しかいないんですよ? これ以上両親に負担はかけたくないし、美穂に頼るなんて筋違いにも程がある。何より、俺のせいで由佳子さんはいなくなってしまったのに、今の兄貴はそれを知る事すらできないんだ。だったら俺が兄貴の面倒見るしかないでしょ? 兄貴が目を覚ました時、一番に由佳子さんの事を伝える為にも……」
「自分の事は、考えないの?」
「そんな暇はありません。四の五の考えるのは、やめにしたんですよ」
僕は佐伯先生の顔をまっすぐ見つめて言った。この言葉に嘘や偽りなどない。
「佐伯先生」
前置きして、僕は言葉を続けた。
「俺、実は大学辞めようと思ってるんです」
「えっ⁉」
「休学の延長はしてきたけど、俺はこれから先もずっと兄貴の面倒を見ていくつもりです。だったら、何も大学にこだわる必要ないかなって……」
「ダメよ、そんなの」
佐伯先生がきっぱりと言った。怒りを含んだ表情で、あまりにも無様な僕を見ていた。
「前にも言ったけど、あの事故が起こったのも、由佳子さんやお兄さんの事も決して孝之君のせいじゃない。不幸な偶然が重なってしまっただけなの」
「……」
「確かに、今のお兄さんがいつ目覚めるのか分からない。でも、私達も頑張るから。孝之君、苦労して大学に受かったんでしょ? どうして君がそこまで……」
「どうして、ですか?」
「そうよ」
力強い言葉だった。あの看護士同様、何も事情を知らない佐伯先生の疑問は確かにもっともで、一般的なものに違いない。しかし、当事者である僕の中の疑問は彼女のものと少し違っていた。
僕は言った。
「……じゃあ、どうしてなんですか? どうして、俺じゃないんですか?」
「孝之君?」
「どうして俺じゃなくて、兄貴や由佳子さんがあんな目に遭わなくちゃいけなかったんですか? どうして……!」
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