第15話
僕の許しを得た兄貴は、中学生になるとすぐにバスケットボール部に入部した。
運動神経抜群な上に、他の誰よりも体格が良かった兄貴はあっという間に技術を上げていき、三ヵ月後には一年で唯一のレギュラーとなっていて、どの試合にもスタメンから活躍していた。
僕は、兄貴の試合を二回ほど見に行った事がある。最初の一回は兄貴が中学二年、僕が小学三年の秋の大会での事だった。
その日は日曜という事もあって、僕は両親と一緒に県民体育館へ応援に行った。体育館の中は選手達が大勢いて、ウォーミングアップをしたり自らのフォームをチェックしていたりとやたら忙しそうにしていた。
自分より遥かに大きい体の中学生達に圧倒されながらも、どこかに兄貴がいると期待していた僕は応援席に座ってからもずっと首をきょろきょろ動かしていた。そして、何人かのチームメイト達と一緒にコートの中に入ってきたユニフォーム姿の兄貴を見つけた時は、いつも以上にかっこよく見えた。
これから兄貴達の試合が始まるのだ。急にわくわくしてきた僕は、席からすっくと立ち上がると、両手を振りながら大声で言った。
「兄ちゃん、僕来たよ! 頑張って!」
かなり大声で叫んだので、僕の声は体育館中に響き渡った。一瞬だけ周りの人達は沈黙したが、すぐにくすくすという笑い声が漏れ始める。父も母も次男坊の突然の行動に顔を赤くし、その視線は足元に落ちてしまったが、当の僕はそんな事には全く気が付かず、ただただコートの中の兄貴に手を振り続ける。僕の声に気付いた兄貴は口をぽかんと開けて応援席にいる僕を見上げていたし、そんな兄貴のチームメイト達はにやにやと笑いながら彼の頭や肩を軽く小突いていた。
その何分か後に試合は始まった訳だが、兄貴はどの選手よりも活躍していた。オフェンスでもディフェンスでも兄貴を上回る者は誰一人おらず、コートの中はまさに彼の独壇場だった。
チームメイト達も兄貴の動きに集中し、チャンスと見て取ると、すかさずボールを回した。兄貴はその期待を裏切る事なく、どんな場面でも確実にゴールを決めていった。
特に印象的だったのが、後半終了三十秒前の事だった。相手チームの一人が3ポイントシュートを決め損ね、ボールがゴールリングに弾かれたその瞬間、兄貴が矢のように反対側のゴールへと走り出したのだ。
「リバウンドォ‼」
兄貴が叫んだのと同時に、彼のチームメイトの一人が高々とジャンプし、宙を舞っていたボールを奪い取る。そして「康介!」と一言だけ叫ぶと、そのボールを兄貴に向かって投げたのだ。ボールは見事な放物線を描いて、しっかり兄貴の胸元へと飛び込んだ。
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