第4話
ここ最近の僕は午前六時半に目を覚ますと、階段を降りてすぐの所にある洗面所で洗顔と歯磨きを済ませ、再び二階の自室に戻って身支度を整えてから朝食の準備を手伝うというパターンを繰り返していた。
大学受験三ヵ月前までの僕は結構だらしなく、ぎりぎりまで寝ている事などしょっちゅうだった。その度に慌てて起き出しては、寝間着のままでありあわせの食事を適当に頬張り、うっすらとヒゲが生え始めていても構わずに、シワだらけの制服に着替えて家を飛び出していたものだ。
そんな、割とだらしなかった僕が毎日同じ時間に起き、同じ時間に身支度を済ませ、同じ時間に朝食の準備を手伝っている。その現実に、両親はもう何も言わなくなったどころか、申し訳なさそうに僕の顔を窺い見てくるようになった。
今朝もダイニングテーブルに食器を運ぼうとしていた僕を、先に席に着いていた父がちらちらと見てきたので、大きく息を吐き出してから僕は言った。
「親父、もう半年になるんだぞ?」
「あ、ああ……」
口ごもりながら言葉を返すと、父は慌ててテーブルの上の新聞に手を伸ばす。そのまま記事を読み始めたが、おそらく内容などあまり頭に入っていないだろう。キッチンでサラダを盛り付けている母も、そんな僕達を交互に見つめてから、静かに足元へと視線を落としていた。
二人とも、僕が犠牲になっているとでも考えているのだろうか。だとしたら、それは間違いだというのに。
僕は自分の腕時計を見た。大学入学が決まった時、お祝いだと言われて兄貴にもらったものだった。長針と短針は七時きっかりを差していた。
「早く食べようよ。病院まで、一時間もかかるんだから」
僕は両親の顔を順番に見遣ってから言うと、母が「そうね……」とゆっくり言葉を返す。父は何も言わなかったが、新聞の向こう側で小さく頷いていた。
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