第122話



 それから、小一時間後。


 俊介と麻衣は、天まで突き抜けそうだと思わせるほどに高く、大きなビルの足元に立っていた。


 首をしっかり上に向けても、夕焼けの光に遮られてその最上階を目に捉える事ができない。あまりの高さに、思わず麻衣は呟いてた。


「鳴海先生の事務所とは、まさに雲泥の差ですね……」

「そりゃ、そうだろうよ。神崎家はこの業界のトップでエリートなんだから」


 ちぇっ、と吐き捨てるように言ってから、俊介はビルの入り口自動ドアの脇にある表札を指差す。そこには、『KANZAKI』とだけ書かれていた。


「えっ!? ちょっ……ここ、オフィスビルじゃないんですか!?」

「嫌味すぎるが、れっきとした神崎家の家だよ。これでも、まだこぢんまりしてる方だと」


 そう言うと、ひどく慣れた様子でビルの自動ドアをくぐっていく俊介に、麻衣は慌てる。


 考えてみれば、何のアポもなしにここに来てしまった。心霊弁護士と真逆の仕事をするのが心霊検事なら、そんな真似をすれば門前払いを食らうのが関の山ではないのか。


 まずい、今は止めなきゃと麻衣が後を追おうとしたその時、自動ドアの向こうからまるで歓声のような大声が聞こえてきた。


「ああっ! な、鳴海家のぼっちゃんではないですか!? ご無沙汰しております‼」

「皆、俊介さんがお越しになったわよ~!」

「急いで、京也様にご連絡差し上げろ! あと、これからの予定は全てキャンセルだ!!」


 見れば、このビルで働いていると思われる老若男女様々な者達が俊介をわらわらと取り囲んでいた。


 嬉しそうに話しかける者や慌てて動き出す者もいる中、当の俊介一人だけがうんざりとした表情を見せている。そして、やや大声で皆に言った。


「お前らな! 熱烈歓迎はいい加減もう飽きちまってるから、早く京也に会わせろ!」

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