第123話
京也の書斎だと言われて通された部屋は、俊介のそれの十倍近く広い間取りであった。
部屋の壁に添っていくつもの本棚がぐるりと立ち並んでいる様子は同じだが、価値を全く推し量る事ができないほど高級感溢れるアンティークな置き物や装飾品が、それ以上の数をもって書斎の至る所で光り輝いている。
その、あまりにもきらびやかで眩しい中、麻衣は来客用のソファに座ってはいるものの、もじもじと体を揺らして全く落ち着く事ができない。行儀悪く、書斎のデスクの上に腰を下ろしていた俊介がそれに気付いて、声をかけた。
「何、緊張してんだよ」
「い、いや。そういうんじゃなくて……」
麻衣は、自分の胸元を押さえる。何故か、この書斎に入った時から、胸元がずくんと重苦しい。それが、麻衣の中から落ち着きを奪っていた。
どうしてだろう、と麻衣は考え込む。
そういえば、あの神崎って人がヒロミさんを縛り付けようとした時、何故か唐突に怖くなった。自分がやられた訳でもないのに、あの光景を知っていたような気がして、たまらなくなって――。
今だって、そうだ。緊張なんかじゃない。これにふさわしい言葉があるのなら、『警戒』だ。
何で? どうして、会って間もない人に警戒をする必要が……。
麻衣が更なる自問自答に入りそうになった時、ふいに書斎の出入り口のドアが乱暴に開かれた。
二人が反射的に振り返ると、そこには走ってきたのか、少々スーツとネクタイが乱れている上に、ぜいぜいと息を切らしている神崎京也の姿があった。
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