第119話

翌日の夕方、歩道橋の袂のベンチ。


 自分を呼ぶような誰かの声に導かれて、西条ヒロミの地縛霊はそこへすうっと姿を表す。


 そして、そっと両目を開いて目の前にいる呼び出し人の姿を確認した途端、「ゲゲッ!?」と、何とも女性らしからぬ声をあげた。


「ナ、ナルちゃん……!」

「ヒロミ。お前、とうとう心霊検事に目をつけられたんだってなぁ?」


 ヒロミの目の前には、青白い光を放つ『心霊六法全書』を脇に抱えつつ、ピクピクと口の端を歪ませる鳴海俊介がいた。


 彼の横には、どこかオロオロと二人の様子を窺う佐伯麻衣もいる。そんな彼女を見て、ヒロミは合点がいった。


「やっぱりね。あんたなら、ナルちゃんに言っちゃうんじゃないかと思ってた!」


 幽霊だが、ふう~……とあきれたような息をつくヒロミ。それを見て、さらにあきれたような口調で言ってきたのは、俊介だった。


「な~に言ってやがる? 前々から俺は忠告してたはずだ、いい加減に成仏しろって。いつまでもグズグズして、俺を巻き込むなっつの!」


 と、いつものように『心霊六法全書』を振り上げようとするが、「鳴海先生!」と一言だけ言って、後は絶対零度の視線を向けてくる麻衣の姿に何もできなくなる。それを見て、ヒロミはふふっと苦笑いを浮かべた。

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