第118話
それじゃあ、と、京也は再び『心霊六法全書』を構えた。
『ぼちぼち罪を認めたまえ。もう二十年もこの場にいる上、生前の恋人を長年に渡って困らせ続けるなんて、とても感心できる事じゃないからね』
麻衣はそれを必死で止めた。ヒロミが何の弁解も釈明もしていないのに、話も聞かないまま罰するなんてありえない。やめなさいよと、繰り返し叫んだ。
それが何度目だったか、京也が肩をすくめながら、大袈裟な溜め息をついた。
『やれやれ。これだから自覚のない子は困るよ。言っておくけど、僕の仕事は依頼主の意思によって決まる。今回は、あの間宮さんからの依頼だというのに』
それを聞かされた時のヒロミの表情は、もはや絶望に近いものがあった。
ブルブルと身を震わせ、今にも泣き出しそうな表情をしたまま、麻衣の腕の中からヒロミは静かに消えていく。
それを見て、麻衣はようやく彼女が幽霊なのだと認識せざるを得なくなり、次にこう言ってベンチから立ち去った京也の言葉が憎らしくて仕方なかった。
『あ~あ、逃げられちゃったね。近いうちにまた来るよ。今度はきっちり求刑するからね』
悔しい、悔しい、悔しい。
例え幽霊だろうがなんだろうが、ヒロミさんは私の大事な友達なのに。ずっと私をあのベンチで励ましてくれた、大切な友達なのに……!
「……その横暴さをなくして、幽霊達の話を聞いてやる為に俺みたいな奴がいるんだよ」
ふと我に返った瞬間、俊介のそんな言葉が聞こえてきて、麻衣はある事を思い付く。
もしかしたら……。
「鳴海先生、お願いがあるんですけど!」
麻衣の必死な口調に、俊介は一瞬うろたえる。
どこまで思い出してるのか、もしくはまだなのか。それを聞き出す術もないまま、俊介はいつものように「何だよ?」と答えるしかなかった。
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