第115話

「心霊検事……?」

「そう。一言で言えば、犯罪を犯していると思われる霊に求刑し、罪を償わせる職業さ。まあ、霊媒師に近いといえばそうなるかな?」

「何をバカ言ってるんですか」


 麻衣はすぐ近くに見えるヒロミの顔を見た。


 何をされたのかは分からないが、よほど辛いのか、ヒロミの息づかいはまだ整っていないし、顔色も悪い。


 それでも「気にしないでいいよ」と言いたそうに麻衣を見つめてくる目はいつもと同じく優しかった。


 そして、何より。


「こうして、触れるじゃない……」


 麻衣は言った。


「ヒロミさんは、私の大事な友達です。私を励ましたり、相談に乗ってくれたりして、いつも楽しく過ごしてきたんです! そんな人が……」

「人じゃない。彼女は立派な霊さ」


 麻衣の言葉を遮り、京也は『心霊六法全書』をやや浮かせるように構えながら、続きを話した。


西条さいじょうヒロミ、享年二十六。二十年ほど前、ちょうどこのベンチの所で通り魔に刺されて、即死した。恋人を守ろうとしてね」

「え……」

「さっきの男性は、西条ヒロミの当時の恋人さ。死んでなお、この場に地縛霊として残り続ける彼女を何とかしてやってほしいと依頼を受けたんだ。少なくとも、不法占拠の罪には問えるけど?」

「嘘です、そんなの! だって、私は今、ヒロミさんに触って」

「そう思うなら、本人に聞いてみればいい」


 自信たっぷりの声色でそう言う京也に、ヒロミの表情がどんどん暗くなる。それだけで、何もかもが伝わるようだった。

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