第112話

「それは?」

「『心霊束縛塩しんれいそくばくえん』という特別な塩ですよ。心霊検事組合通販で販売されてるもので、霊を閉じ込めるに最適なお手軽グッズです」


 四十代の男の問いに淡々と答えながら、彼は残りの包み紙も同じように開いてはベンチの前に置いていく。


 麻衣はますます寒くなって、両足が震え始めた。何故か分からないが、知っているのだ。あの塩が、どれほど強い効果を発揮するかを――。


「さてと」


 包み紙を全て置いた若い男は、今度はバッグから分厚い一冊の本を取り出した。俊介がいつも使っているものと同じ、『心霊六法全書』を。


 麻衣が驚愕で大きく息を飲んだのと、若い男が『心霊六法全書』を前に突き出しながらこう唱えたのは、ほぼ同時だった。


「我は心霊検事、神崎京也かんざききょうや! ここに留まる地縛霊を求刑する! 被告霊は直ちに姿を現せ!」


 その瞬間。


 若い男が持つ『心霊六法全書』が赤く光り輝き、ベンチの前に置かれた『心霊束縛塩』がバッと勢いよく飛び散る。


 そして、火花が激しく散るような音がいくつもしたかと思ったら、ベンチの前に突如として霊が現れた。その霊は、麻衣がよく知る顔だった。


「きゃあぁぁぁ~~~!!」


 『心霊束縛塩』に捕われ苦しいのか、彼女は顔を歪めて叫ぶ。そこで麻衣はやっと走り出す事ができた。


「ヒロミさん!」


 そう。現れた地縛霊は、ヒロミだった。

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