第111話
ヒロミさん、何て言ってくれるだろうと、子供のようにうきうきとした気分で、麻衣は歩道橋の袂までやってきたが、そこに彼女の姿はなかった。
その代わりとでもいうように、歩道橋の袂のベンチの前に、二人の男が立っている。一人は、見覚えがあった。
「……あの人、確かこの前の」
そう。少し前、麻衣とヒロミがベンチで話し込んでいる中、いつのまにかすぐ側に立っていたあの男。二人の――いや、正確にはヒロミの足元に持っていた花束を置いて、そのまま去っていった四十代の男だった。
「ここです。ここで、彼女は……」
少し離れていたが、それでも麻衣の耳には彼の声が届いた。
「……そうですか。分かりました、やってみましょう」
彼の言葉に答えたもう一人の男は、俊介と近い年頃と思われる若さだった。やや長髪だが、高級そうなスーツをきちんと着こなしているその姿は、ただ立っているだけなのにひどく優雅に見える。
そんな若い男が脇に抱えていた革製のバッグから小さな包み紙を何枚か取り出したのが見えた時、なぜか麻衣は全身が一気に冷たくなった。
え、何で……? よく分からないけど、あの包み紙の中身が、すごく怖い……。
若い男は包み紙の一つをゆっくり開いて、ベンチの前にそのまま置く。見えたのは、純白のきめ細やかな粉で盛られた小さな山だった。
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