第108話

俊介の腹の虫が、盛大に鳴り響く。それを聞いて、タキばあは言った。


「その様子じゃ、無理なようだね。また今度にするかい?」

「……ざっけんな、ババア。これ以上支払い延ばしたら、あんた消えちまうだろ……」

「いいから。ナルちゃん、無理はしなさんな」


 『心霊六法全書』を弱々しく手に取って立ち上がろうとする俊介を、タキばあが首を横に振って制する。


 空腹でふらつく俊介の口から、小さく「くそっ……」という言葉が漏れた。


「何かでかい依頼一つあれば……」

「あたしゃはまだまだ大丈夫だよ、ナルちゃん。地縛霊をそう舐めるでないさね」

「でもよ……」

「ああ、そうだ。地縛霊と言えば」


 無理矢理話題を変えようとするタキばあにムッとするものの、反論する元気も出ず、俊介はデスクの椅子にふらふらと寄りかかる。


 それに気付いたかどうかは分からないが、タキばあの言葉は続いていた。


「あの子はどうなったんじゃ? ほれ、歩道橋の所の……」

「ああ、あいつか……」


 俊介はすぐに答えた。


「『あともう少しだけ、待ってほしい』とか言われて、もう何年経つんだか……。そろそろ成仏させないと、ヤバいかもな」

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