Case.4 婚約不履行

第107話

「……うぅ~。あぁ~……」


 まだまだ明るい昼過ぎの事。


 窓から、さんさんと太陽の光が降り注ぐ『鳴海心霊法律相談事務所』の書斎。


 そこのデスクで、鳴海俊介はあちらこちらを漂う浮遊霊と寸分違わぬ辛気くさい唸り声を細く長く吐き出している。


 向こう四ヶ月分の『家賃』を受け取りに来たタキばあは、彼のそんな様子を見て、やれやれと呆れたように肩をすくめた。


「何だよナルちゃん、しっかりおし! 今にも死にそうな顔するんじゃないよ」

「死にそうなんだよ、マジで……。この二日、水しか飲んでないんだぞ~……」


 西宮孝太とマッキーの件でタダ働きしてしまった事がきっかけになったのか、ここしばらく依頼という依頼が全く来ない。


 いや。警察と似たようなもので、心霊弁護士がヒマだという事は、この世の中で苦しんでいる霊はいないという事。つまり、平和なのだ。


 世の中、平和。霊にとってそれは実に結構な事で、成仏における道しるべになる。どんな高度な説得や弁護にも勝る、とても素晴らしい事態だったりする。


 だが、とても残念な事に、人間は平和だけでは暮らしていけないし生きていけない! 生活の為に稼ぎ、食物を搾取しなければならないのだ。


 俊介にとって、その最大要素となる依頼が途絶えている。


 と、なれば、心霊弁護士以外で仕事をしていない彼の生活がどうなるか、火を見るよりも明らかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る