第105話



「……んぅ……」


 翌日の早朝。


 西宮公太は自室の床に倒れ伏したままの状態から、ゆっくりと起き上がった。


 部屋の中には誰もいなかった。頭の中がひどくぼんやりとしていて、体も重い。


 昨日の『あれ』はタチの悪い夢だったのだろうかと、公太はおもむろに自分の首元に手を当てる。


 その途端、何だかジャリッとした嫌な感触が指先に触れて、背筋が凍った。


 慌てて壁にかけてあった二十センチ四方の鏡を覗いてみれば、公太の首にはこれまで見た事がないような恐ろしげな手の指の痕がくっきりと残っていた。


「ひっ!?」


 短く叫んで、その場にしりもちをつく。


 ゆ、夢じゃなかった……? あ、あのマントの化け物に、僕は殺されかけて……。


 そこまで思い出した時、ふと公太は不思議に思った。


(じゃあ、あのマントの化け物から僕を守ってくれたのは……?)


 あのマントの化け物に首をギリギリと締め上げられて、すぐに意識が遠退いていって。


 だけど、そんな中でも確かに聞こえてきた声があった。あれは、確か……。


『ガウガウガウガウッ!! グルル~~!!』


 どうやってかは知らないけど、二階にあるはずの僕の部屋の窓から、飛び込んできてくれた。あれは間違いなく。


「マッキー……!」


 確信を持って飼い犬の名を叫ぶと、公太は足がもつれそうになりながらも何とか立ち上がり、部屋から飛び出した。

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