第103話

「先生! マッキーが、マッキーの生き霊が!」

「……あいつの言う通りだって、言っただろ?」


 狼狽し、あたふたとする麻衣に対して、俊介はひどく冷静だった。


 まるで、マッキーの生き霊の身にこれから起こる事など、最初から分かっていたかのように。


 俊介は、マッキーの元へとゆっくり歩を進めた。


「マッキーの寿命はとっくに切れてる。それでも生き長らえてきたのは、主人への心配がなせる技か?」


 でもな、と呟くように言うと、俊介はマッキーに視線を合わせるように屈んだ。


 マッキーの生き霊は公太に寄り添ったままで、不用意に近付こうとしてくる俊介に「グルルゥ……」と警戒心を剥き出しにしている。


 そんな健気な名犬の姿を見て、麻衣は言った。


「せ、先生っ! マッキーをいじめないでくださいよっ!?」






『やめてぇ! お母さんをいじめないで! お母さんを助けてよ!』






 俊介の脳裏に、十年前に聞いた言葉が蘇る。


 あの時もあいつ、似たような事を……。それを、俺は!


「話をするだけだよ」


 振り返りもせずに短くそう答えると、俊介はマッキーをじっと見据えて言った。

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