第101話

「確かに、今の俺にはあの頃みたいなギラギラ感はないかもな。でも」


 一度言葉を切って、俊介はマントの者をさらに睨み付けた。


「今だって、そんなに悪くねえよ。ちょっと儲けが減ったのが難点だがな」

『ふふ……。非常に残念だよ、鳴海俊介。史上最年少で天才心霊検事と呼ばれていた少年が、こんなに丸い大人になってしまうとは』


 余裕しゃくしゃくの口調で言葉を進めるマントの者だったが、内心はひどく焦っていた。


 何だ、この状況は? まるで十年前と同じじゃないか……。


 しかもこの男、口ではあんな事を言っているが、その身や『心霊六法全書』から感じられる力は、十年前より遥かに強くなっている。心霊弁護士が、心霊検事より力が上になる事などありえないはずなのに……。


 こいつは本気だ。例え『霊界最高裁判所』全体を敵に回したとしても、あの犬畜生と飼い主を……いや、あの娘を守り通すつもりに違いない!


『おのれ……』


 分が悪くなったと感じて、マントの者が思わずそう呟く。それを聞いた俊介はわずかに『心霊六法全書』を下げ、ぐったりと倒れ込む公太を見ながら言った。


「あいつ、まだ情状酌量の余地があるだろ? もう一回くらいチャンスやっても、バチは当たらねえぜ」

『そうすれば、互いに戦わずにすむか?』

「まあな。こう見えても俺、かなりの平和主義者だし?」

『ふん、よく言うわ……』


 マントの者が身を軽くよじると、それまで縛っていた光の縄が一瞬で切られた。


 えっ!? と短い声を出して驚く麻衣を尻目に、マントの者の姿が徐々に透け始めた。


『次はないぞ?』


 マントの者が言った。


『今度はしゃしゃり出てくるなよ。お前はもう心霊検事ではない、ただのか弱き心霊弁護士だ……』


 その言葉を最後に、マントの者は俊介と麻衣の目の前から完全に消え去った。

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