第97話
「……ちょっと、何やってんのよあんた!」
そう聞こえてきたと思った次の瞬間には、マントの者の体は思い切り突き飛ばされ、部屋の壁へと激突していった。
マントの者から解放された公太とマッキーの生き霊は、どさりと床に倒れ込んだ。意識を失っている公太はぴくりとも動かなかったが、マッキーの生き霊は「グ……ゥ……」と途切れがちに唸りながら、主人の方にずりずりと這っていく。
一方で、マントの者は、自分の身に起こった事がとても信じられなかった。
尻もちをつくような格好になってしまった自分を、一人の若い女がやや興奮した表情で見下ろしている。
現世の者ではない自分がこんな事を思うのもいささかおかしいが、この娘はどうして私に驚かない? 何故、私を突き飛ばす事ができた?
いや、それ以前の問題だ。この娘、何故……。
尻もちをついたまま、マントの者が言った。
『娘。何故、私の姿が見える? 何故、私に話しかける事ができる? 現世でそんな事ができる人間は、限られているはずだぞ……』
それに対する彼女――佐伯麻衣の答えは、こうだった。
「知らないわよ、そんなの! マッキーがいきなり倒れて、その生き霊が家の中に入っていって、後を追おうと思ったけど、玄関には鍵がかかってて。でも叩いてたら、何かいきなり開いて。住居不法侵入に問われるの覚悟で入ってみたら、あんたが二人に何かしてたんじゃないの! で、出ていきなさいよ、この悪霊!!」
だいぶ場馴れしてきたのか、麻衣の言葉にはやや迫力と度胸が入り交じっている。
だが、それを聞いて、マントの者は、ああと思い出した。
確か、あれは十年ほど前だ。あの時も、私は……。
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