第91話

そして。


「西宮さん、西宮公太さん! 心霊弁護士鳴海の助手で、佐伯といいます! お話があります、ここを開けて下さいっ!」


 ありったけの大声で叫び始めた。


 鳴海先生の言った通り、マッキーはまだ生きてるし、西宮さんも普通の人間なんだから、幽霊専門の弁護士なんて今回必要ないと思う。余計なお世話だなんて言われたら、それまでだ。


 だけど、だからってこのままじゃマッキーがあまりにも可哀想じゃないか。


 何があったか知らないけど、あんなふうにマッキーを避けるのは理不尽すぎる。あの流れ込んできた記憶を見た限り、マッキーには何の落ち度もないはずなのに……。


 話をしなくちゃ。まずは西宮さんから話を聞いて、何とか解決策を見つけなくちゃ。


 そう思いながら、麻衣は何度も何度も西宮公太を呼び続ける。


 自らの頭上で、雨雲と呼ぶにはあまりにも不自然な分厚い何かが、ぐるぐると立ち込めている事にも気付かないまま――。




「……っ!?」


 麻衣が西宮家の玄関先で叫び始めたのとほぼ同じ頃。


 俊介は異様な気配を強く感じて、書斎のデスクから勢いよく立ち上がった。


 同じくそれを感じただろうタキばあも思わず大きく身震いし、俊介を振り返る。


「ナルちゃん。これは……!」

「ああ。何だよ、あのガキ。厄介な奴に取り憑かれてたんだな。今頃になって気付くなんて、俺もヤキが回ったぜ!」


 チッと舌打ちをしてから、俊介はデスクの上の『心霊六法全書』を手に取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る