第89話



「……きゃあぁっ!!」


 突然、右腕に切り裂かれたかと思えるような強烈な痛みが迸り、麻衣はマッキーから思わずのけぞった。


 反射的に右腕を押さえて、うずくまる。今まで味わった事のない激痛に、動く事はおろか、声を絞り出す事すらできなかった。


 い、痛い。ものすごく痛い……。腕が、今にもちぎれそう……!


 だ、誰か、誰か助けて……。お父さん……。


 激痛のせいで、視界と意識がぼやけ始める。右腕を押さえたまま、麻衣の体がぐらりと傾いた時、とっさに彼女を支えたのは。


「グ……ゥ……。キュ~……」


 辛そうな鳴き声が聞こえたと同時に、麻衣の右腕の痛みが嘘のように消えた。


 はっと我に返った麻衣が固く閉じていた両目をゆっくり開けてみれば、倒れかけた自分の体の下にマッキーの温かい背中があった。


 いくら小柄な体格とはいえ、力が抜けた麻衣の全身を支えるには、年老いた身では堪えるのだろう。マッキーの半開きの口からは、ちらりと見える犬歯と共にひどく荒い息づかいの音が聞こえてきていた。


「……マ、マッキー!?」


 慌てて麻衣は上半身を起こして、マッキーから離れる。


 マッキーはふらつきこそしたものの、それでもその場に伏せる事もなく、じっと麻衣を心配そうに見つめ返していた。

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