第86話



『……うわぁ~。この犬、カッコいい! 何か強そう!』


 ……誰、この男の子?


 十歳、くらいかな? 小さな瞳で僕を覗き込んでる。何だかすごく嬉しそう……。


『お父さん。僕、この犬を飼いたい。いいでしょ?』

『おいおい、こいつはドーベルマンだぞ。今は小さい子犬だが、すぐに公太より大きくなって怖くなるぞ~』


 その子の後ろには、父親と思われる男の人がわざと脅かすように話してる。さらに彼の傍らには、これまで僕の世話をしてくれてたブリーダーの女の人が困った顔をしていた。


『そうだよ、僕? 他にもかわいい子、たくさんいるよ? ほら~』


 そう言って、ブリーダーの女の人が僕よりさらに一回り小さい別の子犬を見せてくる。


 でも、男の子はじっと僕を見たままで。


『やだ。こいつがいい。だって子犬なのに、こんなに強そうだもん。きっと僕を守ってくれるよ。だからお父さん、お願い!』


 男の子はポケットの中から、じゃらじゃらと小銭を何枚か取り出して、父親に頼み込んでいる。その姿を見て、僕は心底思った。


 嬉しい、嬉しい、本当に嬉しいよ。


 だったら、僕は君をずっと守るよ。何があっても、この子を――公太君を。

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