第83話

「……あー、くそっ!これだから生きてる人間と関わるのは嫌なんだよ! 悪霊どもより話は通じねえわ、怪しげな宗教勧誘と思い込むわ、こうやって怪我させられるわ、ろくな事がねえ!」


 その日の夜。


 洋館の書斎に戻ってきた俊介は、すぐに上半身裸になってデスクに突っ伏した。


 その裸の背中や腰元めがけて、タキばあが何枚かの湿布をポルターガイストの応用で次々と貼りつけていく。その顔はひどく呆れていた。


「な~にが怪我させられたじゃ。ただの打ち身くらいで大袈裟なんだよ」

「はっ、よく言うよ。俺の体に何かあったら、あんたも困るくせに……いってぇ! もっと優しく貼れよな」

「うるさいのう。文句があるなら、麻衣ちゃんにやってもらえばいいじゃろう。何で置いて帰ってきたんだい?」

「置いてったんじゃねえ。あいつが勝手に残るって言ったんだ」


 数時間前。


 西宮公太に突き飛ばされ、その場に尻もちをつかされた俊介は、一瞬で我慢の限界を迎えた。


 自分は幽霊の人権を守る弁護士であって、あんな見るからに面倒臭そうな何かを抱え込んでいる生きた人間の窓口相談係じゃない。


 ああ、バカバカしい。ドーベルマンに引っ張られてわざわざ来てやったというのに。あんな奴、もう知るか。


 そう思いながら、今度こそ帰ろうとした俊介の耳に、麻衣からの信じられない言葉がやってきた。

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