第82話
それを俊介が右手と右足を玄関のドアの隙間に乱暴に差し込む事で、強引に止める。
「こら、何で逃げんだ!?」
先ほど、麻衣に言われた事と同じ言葉を繰り返す俊介。一方で、公太は懸命に玄関を閉めようとしていた。
「か、か、帰って下さいっ……」
声を絞り出すようにして、公太が言った。
「ぼ、ぼ、僕は……じ、自分を守るのに必死で……マッキーなんか、マッキーなんか気にしてる余裕ないっ……。生き霊とか、訳分かんない……」
「あ? 何だそりゃ?」
「とにかく、し、知らない人は帰って……。マッキーも、もう年だし、ほ、ほっといても構っても……どうせ、し、死ぬ、し……」
その言葉を聞いて、麻衣の中で何かがカチーンと鳴った。
何があったか知らないが、あまりにもひどすぎる。自分の事で精いっぱい? どうせ死ぬ!?
麻衣は俊介の背後から怒鳴り散らした。
「西宮さん! いくらなんでも言い過ぎでしょ! あの子、本体が弱ってるのに毎日生き霊になって来てくれてたのよ! きっと私達をここまで案内するつもりで……、ちょっと聞いてるの!?」
公太は一切返事をしなかった。
麻衣の説教など聞こえないとでもいった態度で俊介を軽く突き飛ばすと、急いで玄関のドアを閉めてしまう。その後、ドタドタと家の奥に走る物音だけが遠ざかっていった。
玄関前で尻餅をつく格好になった俊介に、麻衣が「鳴海先生、大丈夫ですか!?」と屈み込む。
それを、ドーベルマンは弱々しい鳴き声を発しながら見ていた。
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