第78話

光の塊が向かっていったのは、家の庭先だった。


 大した広さがある訳でもなく、またさほど荒れた様子もない。手作りと思われる小さな花壇が一つと、古い物干し竿。そして、同じく古い犬小屋が見えた。


 光の塊は、その古い犬小屋の前で力なく寝そべっている「本体」へ吸い込まれるように消えていく。その直後、「本体」はゆっくりと目を開け、力なく唸りながら後を追ってきた二人を見つめた。


 麻衣は大きく目を見開いた。


 生き霊として洋館に来ていた時はまるで気付かなかったが、彼の「本体」はひどく弱々しいものだ。


 艶のあった毛並みはその輝きをすべて失ってくたびれ、ピンと立っていたはずの両耳もへにゃりと畳まれている。右の前足の一本傷はそのままだったが、立ち上がるのも辛いのか、小刻みにブルブルと震えていた。


「こ、この子は……」


 思わずそう言った麻衣の言葉に、俊介も「ああ……」と続けた。


「もう生き霊とは呼べないな。寿命のせいで意識が途切れがちになって、魂が抜けてたんだ。こいつはもう長くない」


 それでも、年老いたドーベルマンは何かを訴えようとするかのように、満足に動かす事もできない四本の足で必死に家の方に這い進んでいく。


 俊介はつられるようにして、家を見上げた。


「こりゃ、飼い主に話を聞くしかねえようだな。ったく、生きてる奴には極力関わりたくねえのに……」


 面倒臭そうに言いながら、玄関の方に向かう俊介。麻衣はドーベルマンに「大丈夫だから、もう動かないでね?」と一言言ってから、彼の後についていった。

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