第77話
それから少しして、ドーベルマンの幽霊の足がピタリと止まり、「ウゥ~……」と軽く唸りながら、目の前に佇む一軒の家を見上げた。
それはどこででも見かけるような、普通の家だった。豪邸という訳でもなければ、俊介が事務所としているあの洋館のように朽ちている訳でもない。
本当に、ごくごくありふれた中流家庭レベルの家。その佇まいを見て、俊介は非常に重苦しい息を吐き出す。麻衣はそれを決して見逃さなかった。
「あ~、大ハズレ……。赤字決定だわ、これ」
「まだ、そんな事言ってるし」
「あいにく、俺は趣味やボランティアで心霊弁護士やってんじゃねえの。これでメシ食わなきゃいけない訳よ」
「私は、一人前の弁護士になれるなら、報酬なんか一切いらないつもりですけどね!」
「ははっ。報酬なんて、お前みたいな思考だけ猪突猛進小娘には必要ないない。安心しろ、うちからは一円たりともバイト料を払ってやるつもりはないから」
「そっちこそ安心して下さい! 父の影響を受けない事務所を見つけたら、すぐにそっちに行きますから!」
人様の家の前でギャイギャイと言い合う二人をちらりと見やった後、ドーベルマンの幽霊はその姿を空気に溶け込ませるように歪ませ、やがてぼんやりとした光を放つ塊へと変わった。
そのまま、ふわふわとした動きで家の方に入っていくのが見えたので、俊介と麻衣は慌てて後を追った。
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