第63話



「ちょっとぉ! 鳴海先生! 鳴海先生、開けて下さい!」


 また玄関の鍵が増えてる、と麻衣は思った。


 俊介いわく、鳴海法律相談事務所の開業時間は、幽霊達の活動がより活発になるとされている夕方から翌日の明け方となっていて、昼間は彼の優雅な爆睡タイムだという。


 別にそれはいい。今の時代、夜型人間なんてざらだ。


 ただ、それを、たまに力を振り絞って昼間相談にやって来る幽霊達、はたまた洋館の賃貸料の取り立てに現れるタキばあに邪魔されたくないからという理由で、洋館の玄関の鍵をどんどん増やされてはたまらない。


 合鍵を持たされていない以上、そこで大声を張り上げる他なかった。


「鳴海先生ってば! もう! 起きないなら帰りますからね!」


 今日は午後四時に来て、書斎とトイレの掃除をしろとか言ってたくせにと、麻衣は玄関を睨み付ける。


 だが、起きてくれない、開けてくれないでは、どうしようもない。


 どこかで少し時間を潰して、また出直そうかとため息をついた時だった。


 ふいに、何かの気配を感じた。何だか、心底ぞくりとするような。


 加えて、「グルル……」と唸る声。麻衣は肩越しに、パッと振り向いた。

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