第64話
それは、麻衣のすぐ後ろで震えるように唸っていた。
ピンと尖った耳は麻衣の様子を探ろうとしているのか小刻みに揺れ、睨み付けてくる両目は少しでも動くのを許さないとばかりの眼光を放っている。
血統書が付いているに違いないだろう、艶のある黒い毛並みは見事なもので、そこからすらりと伸びる四本足も均整が取れて美しい。
……いや、違っていた。
よく見れば、右の前足に不自然な傷がある。付け根から足先にかけて大きな一本傷か見えていて、それがひどく痛むからか、大きな口から犬歯を覗かせていた。
「え……。ドーベルマン、よね……?」
十中八九、間違いではないはずの犬種名を、麻衣はぼそりと呟く。
古ぼけてはいたものの首元からちらりと首輪が見えたので、どこかの誰かが飼っているのだろうが、その飼い主やリードなどは他に見当たらない。
番犬として優秀な面を持つ一方、荒々しい気性が出てしまう事もある犬が、何でたった一頭でこんな所に……?
麻衣がそう考えたのと、その気配の主――黒いドーベルマンが大きく吠え立てたのは同時だった。
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