第62話
「ヒロミさんも、何か悪い幽霊に絡まれたりしたんですか?」
小首をかしげながら麻衣が問うと、両目を伏せたヒロミは口の片端だけを、静かにそっと持ち上げて笑った。いわゆる、苦笑いというものだ。
そして、答える声は小さいものだった。
「うん、まあね……。でも、その時ナルちゃんに叱られたんだよ。『お前が悪いだろ』ってさ」
「うわ、サイテー! 鳴海先生らしくて、すっごくサイテー! 幽霊に取り憑かれてた女の人に、普通そんな事言いますか!?」
「それが言っちゃうんだよねえ、ナルちゃんは」
「そんな人の所に行かなきゃいけないなんて、本当に最悪ですよ……」
「まあ、そう言わずに頑張んなって。あんたの愚痴は、私が聞いてやるからさ」
と、ヒロミが麻衣の頭をそっと撫でようとした時だった。
話に夢中になっていて気付かなかったが、いつのまにか二人のすぐ側に、一人の男が立っていた。
稔彦よりは年下の、おそらく四十そこそこの年頃だろう。やたら無表情で、小さな花束を抱えていた。
男は二人に目もくれず、ヒロミの足元近くにしゃがみこむと、持っていた花束をそこへ静かに横たわらせる。そして数秒ほどじっと見つめてから、また静かに立ち上がり、そのまま去っていった。
男の成り行きを、二人は声も出せずに見守っていたが、やがて麻衣がそっと言った。
「誰か、お知り合いの方がここで亡くなったんでしょうか……?」
「たぶん、ね……」
ヒロミも静かにそう答えた。
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