第59話

その時だった。


「やめとけ。婦女暴行まで付いたら、即消滅だぞ」


 という俊介の言葉と共に、麻衣のすぐ目の前で『心霊六法全書』がフルスイングされた。


 ヘルメットなどを着けていなかったリーダーは、それをもろに顔面に喰らってバイクごと横に吹っ飛ぶ。仲間達の興奮も、そのあまりの光景に一気に消え去ってしまった。


 麻衣は、信じられない思いで自分の前に立つ背中を見つめた。


 いくら十メートルも離れていなかったとはいえ、どれだけ強靭な脚力を持っていれば、猛スピードで走るバイクに追い付き、それをなぎ倒す事なんてできるのか。


 心霊弁護士なんて言ってるけど、やっぱり本当はああいう悪霊を退治する祓い師なのでは……と思った次の瞬間、麻衣は頭に『心霊六法全書』による制裁を受けていた。しかも、また角で。


 遅れてやってきた鈍痛に、麻衣は悲鳴をあげた。


「……いったああぁ~~い!!」

「こぉの、超ド級KY小娘! 被告霊を意味なく怒らせて、罪を増やさせる心霊弁護士助手がいていいと思ってんのか、あぁん!? どうしてくれんだ! ただでさえむさ苦しくて面倒くさいこいつらへの説得に要する時間が、これで少なくとも二時間は延びたぞ!」

「だ、だって、だってぇ……」

「だってもへちまもあるかぁ! 今から一人一人に言って聞かせるから、お前は順番待ちの奴らに笑顔でおもてなししてろ! ちょっとからかわれるくらいは我慢するんだな!」


 その言葉通り、それから二時間と三十八分、俊介は暴走族の面々一人ずつに話を通していき、麻衣は順番待ちの者に少々ひきつった笑顔を見せては、「赤ん坊が愛想笑いしてやがる」などとからかわれた。


 その度に気にしている童顔を揶揄されているようでムカついていたせいか、麻衣はすっかり忘れていた。


 俊介が麻衣を「心霊弁護士助手」と呼んだ事を。


 そして、麻衣を助けようと走ってきた時の俊介の顔が、これまでになく必死で、焦っていた事を。

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